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もし(まことの人)がいるならば
一体、どんな面影の人であろう?
彼は、この世の体という{ルビ着包=きぐる}みの内に
薄っすら透けた(もうひとつの体)を
宿している。
机上に丸 ....
「 いってきます 」
顔を覆う白い布を手に取り
もう瞳を開くことのない
祖母のきれいな顔に
一言を告げてから
玄関のドアを開き
七里ヶ浜へと続く
散歩日和の道を歩く
....
三日後にわたしは
三十三年間着ていたわたしを脱いで
風の衣を着るだろう
その時世界の何処かに響く
あの産声が
聞こえて来る
その時空から降る
透けた掌と差しのべるこ ....
法隆寺を後にして
大和の日も沈む夜
土塀のつづく石畳の道
街灯の灯る曲がり角に
顔の無い水子の仏像が
肩を並べて待っていた
しゃがんで
幾人もの丸石の顔等に
手を ....
バス停に置かれた
切り株に腰かけ
川沿いの道の向こうにある
斎場を眺める
{ルビ一月=ひとつき}前に
木魚の響くあの場所で
遺影の額から微笑した
老婆のからだはすでに溶 ....
かみさま
大人になった僕は
ずいぶんと長いことあなたのことを忘れていたようです。
時に僕はあなたの姿を見たいと
{ルビ只=ただ}、無力な両手を組み合わせては空に向け
一心にお祈りしています。 ....