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野良猫を叱るために
名前をつけた
せっかく咲いた花の匂いを
ふるびたさかなの骨で
台無しにしたからね
眠れるはずの夜は
色が薄くて
もう愛想が尽きた
昨日歩いた川べりで
....
夏の余した最後の赤で
サルビアが燃える
風が湿気を掃い
柿の実がひっそりと
みどりの果実を隠していても
項を焦がす陽射しや
散水栓の向こうに出来る虹
そういう夏の名残りに守られて ....
丸みの無い水平線の向こう、
空と海の境界が
白く曖昧になるあたりで
春、が転寝している
寒気から噴き出した風が止み
陽の降り注ぐ砂浜には
くろい鳥のような人影が
水面に微笑み ....
遠くから
貨物列車の轍の音が響き
耳元まで包まった毛布の温もりは
夜への抵抗を諦める
暦が弥生を告げて
色づき始めている、
翡翠を纏った木々の芽吹きを
さくらいろの気配を
止めたい ....
さようなら、の向こうで
夢、夢の花が揺れる
その花びらの裏側で
思い出が溜め息をつく
生きて行くことは
分かれ道の連なり
傍らをゆく風さえ
その地図を知らない
今日にうたえば
....
灰色に曇った窓の雫を
つ、となぞると
白い雨は上がっていて
弱々しい陽射しの予感がする
こうして朝の死角で透けていると
ぬるい部屋全体が
わたしの抜け殻のようだ
だんだんと色が濃 ....
まどろみの向こうで
たまごが焦げる
かしゅ、かしゅ、と三つを割って
手馴れた指は
ぬるく充満した昨夜の空気と
朝とを掻き混ぜたのだろう
ふっと白くなる意識と
休日の実感とを
贅沢に ....
梅雨明けを待てずに
空は青に切り開かれて
ホウセンカの種が飛び散る
新しいサンダルが
小指を破って
滲んだ痛みは懐かしい夏
種の行方を見つめ
きみがいない、
そんなことをふと思 ....
遠雷が止み
雨の最初の一滴が落ちるまでの
僅かな静寂に
こころ、ふと無になり
空の灰色を吸い込む
程なく落ち始めた雨粒に
再びこころには
水の班模様が出来て
潤う、のでなく
惑う ....
不愉快な覚醒が
北寄りの強い風で更に増して
両手の無意識がコートのポケットを探す
ひんやりとした裏地や
捨て忘れた入場券に
指先は触れているが
今はそれより風から逃れたい
月 ....