すべてのおすすめ
七月のある日 兄は ぼくを呼んだ
風通しの良い部屋に一人伏せていた兄は
「今度は帰れないかも知れない」という
「弱気なことを…」
ぼくはそう言ったきり次の言葉が出ない
幼少時父も母も病で ....
きみが奥さんを残して
年の瀬も押し迫った雪の日に
ひとり先に逝ってしまったと
知ったのは娘さんからのメール
一昨年の夏
共通の友の斎場で会ったときには
「お互いいい年だから葬儀には来 ....
前を歩いていたあなたは
病棟をつなぐ廊下の途中で
ちょっと振り返って
「じゃあね」と
奥の扉に入っていったきり…
少し左肩を上げ
口の左端を上げてほほえむパジャマ姿の
あなた ....
腹の中
むかし
おふくろは言ったものだ
「おれの腹断ち割って見せたいものだ
真っ白じゃで…」
そう あなたは
腹に一物持つような了見など有りはしなかった
だが
子ども達は ....
妖怪
都会の妖怪は
昼間に出るらしい
夜は明るくて
隠れる場所が無いから
たとえば
人の途絶えた午後
ビルの屋上に出るドアの
前に佇む影
あるいは
休日の事務室に ....
食べ物買うのに言葉はいらない
ましてや売る人の心など
風邪薬は効き目を買う
心配そうな言葉など鬱陶しい
陳列棚から取り出した飲み物
黙って値段を示せばいい
すぐに飲もうと だれと飲 ....
だまされたのかも知れない
甘いにおいに誘われて
近づきすぎた
人だって
グルメな匂いに弱い
縁日の雑踏の中の醤油の臭い
に誘われて
埃と一緒に口に入れる
焼きと ....
長い年月会っていない友人
それでも友人と言えるのは
年賀状にある自筆の文字
さて今年も…
勢いに任せて
「 い ち ど あ い た い ね 」
軍艦を持っていようと
戦闘機を持っていようと
ミサイルをもっていようと
外国に戦を仕掛けず
外国を攻撃せず
腹の立つことも我慢して
バーチャルゲームで
破壊し殺し
世界の平 ....
陸に上がることなど望んでいなかった
沖から寄せる波に乗せられたのだ
いつになったら戻れるのか
オットセイだったら良かったのに
だが人の助けが無くては水の上でも
自由には動けない
ましてや陸 ....
1 2