○父
窓から庭のブランコを
眺めることが多くなった
あれにはもう一生分乗った
と言って
時々体を揺らす
背中が
押されるところではなく
支えられるところとなってから久し ....
*
抽象をなぞる指先が、無色透明な肌に存在だけを記して
昨日の空に溶けて行く、輪廻を正しく辿って行けば
全ての人の記憶は一つになると
ついさっき、知りました。
だから、君の香りはどこか懐かしいのだ ....
浮いた光は気まぐれに運ばれているのか
それとも決まった順路を漂っているのか
ただ、示されたとおりに視線を動かす
乾きから守ろうとする瞳は水の膜を張り
鮮明だったはずのものがぼんやりにじむ
....
白熊が死んじゃう、と言って
つけっぱなしの電気を
消してまわる君は
将来、かがくしゃになりたい
という
撒き散らかされた
鳥の餌のシードを片づけていると
芽がでればいいのに、なんて
....
手を引かれ歩く。
懐かしい匂いのする君
その面影は記憶の水底
私が潜水夫になって強く握り返すと
つないだ手には水たまりができて
空の色を映す。
薄暗い緑の茂みの奥までくると
....
寄せる波に向かって
心の潮「A/アー/(ラ)」の音を放つ
わたしと海はパラレル
返す波からは原始の抑揚
「G/ゲ-/(ソ)」の音がかえってくる
海は ....
太陽という名を持つその花は
光の輪郭を持っていて
「笑って」
と、ほほえみかけてくるのです
大切なものを失って
すべてを噛み殺して
悲しみよりも深くたたずむその人の
かすかな ....
どうしてもダイヤモンドを買えと言うから、
女って、そういうもんなのか、
しぶしぶディスカウントショップに付いて行って、
俺たちには分不相応なんだよ、そんなものは、
きみが選んだのは、光らないダ ....
悲しい歌を忘れられない
あなたがいつか手をのばす
その先に何があるのか
指先は語る事を知らず ただ
まばたきもせずに一心に見つめる
あなたのあの眼差しが欲しいと思う
風さえも忘れる束の間の ....
静脈を流れていった
幾度かの夏がありまして
網膜に棲みついた
((ただそれだけの))海があります
無人の駅舎―――ああ、思い返せば
入り口でした この仕掛け絵本の
....
なんとなくって
あまり好きでないことば
でも毎日使うことば
なんとなく好き
なんとなく幸せ
なんとなくつかれた
意味なんて考えたことはないし
意味なんて
どうでもよかった
き ....
夜の街道は
甘い匂いに充ちていた
火を付けるまえの
煙草の葉のような
甘い匂いに充ちていた
ぬくもり
ふれあい
ひこうせん
夜の街道は
甘 ....
森の夢―古いボート 前田ふむふむ
1
青い幻視の揺らめきが、森を覆い、
緩んだ熱を、舐めるように歩み、きつい冷気を増してゆく。
うすく流れるみずをわたる動物 ....
街なかで白い小鳥を配っていた
籠に入ったたくさんの小鳥を
小鳥配りの人が要領良く配っていく
受け取らないつもりでいたのに
いざ目の前に出されると受け取ってしまう
わたしが手に取ると
それは ....
寝ている隙にブーツの中のにおいを嗅いだ
気が遠くなるという言葉の意味を知った
君を好きな気持ちに変わりは無い
寝ている隙に鼻毛を抜いてみた
殺すぞゴラァと胸ぐらをつかまれた
君を好きな気 ....
{引用=雪見大福サイズの
雪見大福みたいなうさぎたちに 羽がはえて
ぶーーーーん って
いっぱい空を飛んでる
なんだかあわててぶんぶんしているので
いっぴき 飛ぶうさぎを ....
きみの一日を 僕は知らない
きみが毎朝買っているパンの味も
きみが気にして飲んでいる健康ドリンクのことも
きみが僕に隠れて嬉しそうに読んでいる新聞の四コマ漫画のことも
きみが髪を無造作 ....
・三日前の話
私が
指先のみの力で
空を切ったとき
その軌跡は
柔らかなひかりになって
木漏れ日の影の部分を
踏んで行きました
....
夜は僕の肌をなめまわし
僕の知らない僕のこころと密会する
君は君の手垢をつけ
僕は僕の手垢を付けていく
君と僕の手垢が重なることはない
見つめあうことのないふたり
洗剤は合 ....
夢の中に落とし物をした日の朝
猫になっていた
仕方がないので
夫を会社に送り出してから
家事は明日にしようと決め
日向ぼっこをして過ごし
夜になったので眠った
明日はせめて、猿になりたい ....
いつか
この瞬間を
忘れてしまうかもしれない
レースのカーテン
夕暮れの曇り空
ふたりで聴いてる
スローバラード
途中だった思案を開いてみる
また白紙になっていて
今日という日があるのはそのせいだ
記憶なんて信用できないもので
記録のほうがあてになるかもしれないと
毎日、一頁ずつ
日々を書き留めていて ....
夜明け前
神々の気配が
冷えた大地をわたり
静かな{ルビ洞=うろ}に届けられると
指さした方角から
蒼い鼓動が、はじまる
やがて
優しい鋭さをもって
崇高な感謝があふれだすと
う ....
さよなら
気泡みたいなことばを
無造作に夕暮れに飛ばしてみると
橙にすっと溶けていったのは
声が震えていたせいかもしれなかった
車輪の音、渇いた
ペダルを思い切り踏みしめて
陽炎 ....
ふきっさらしの橋の上は
厚着をしていても寒く
あんましその場に 留まりたくない
早足で駆け抜けようとした時
地べたにうずくまっている
毛布に包まった塊が
ぺこん とお辞儀した
ここは ....
鴨川の河川敷を
流れに沿って歩いていく
川面にはたくさんの鳥
思い思いに羽根を休めている
橋の下にさしかかる
橋の支柱に寄り添うようにして
ダンボールでできた家が
しっとりとたたずん ....
おはよう
と声をかけると
前足を伸ばして
答えてくれる
「きょうも元気だね」
「おう、お前もな」
ころころころころ
マルはアスファルトを転がって
横断歩道で欠けて
花びらの形になった サクラの
ひらひらひらひら
春はどこですか
一番遠ざかった季節ですね
ひらひらひらひら
....
私にはもうずっと
お母さんがいなかったので
育ててみることにしました
鉢を買って土の中にお母さんの種を植えて
毎日毎日水をやりました
お母さんは日々順調に育ってくれて
その ....
最近どうにも足が疲れて疲れて仕方が無いので病院に行くと
一応疲れていますねと診断された
一応と言う言葉にむっとしたが
いやそれは最初から分かっているのですが
原因が分からんから調べて欲しいので ....
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