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昼寝から目を覚まし
休憩室から職場への
一本道を歩いていると
路面に置かれたひとつの石は
忘れられてもなぜかまあるく
不思議とぼくを励ました
旅先の古い駅舎の木椅子に座り
彼はなにかを待っている
別段何があるでもなく
時折若い学生達の賑わいに
花壇の菊の幾輪はゆれ
特別おどろくこともなく
杖の老婆はゆっくり横 ....
腰を痛めて休養中のある日
一本の万年筆を右手に持ち
ノートを開いた
机に向かっていた
窓の隙間から吹く風に
浮かび上がるカーテンの
見上げた空にはいつかと同じ
つばめの群 ....
わたしは怠け者であるゆえに
連休前に風邪をひき
おまけの休みの時間のなかで
らんぷ一つの寝台によこたわり
両手に持った本を開いて
在りし日の
詩人の哀しみを読む
....
気まぐれな
夏の恋に傷ついた
氷の心
{ルビ尖=とが}った氷が
音も無く溶けゆく
晩夏の宵
やがて
秋の虫の音は
一人きりの夜に
無数の鈴を
鳴らすだろう
....
旅先で出逢ったひとと
うまい酒を飲んだ日は
深夜にひとり戻ったホテル部屋で
まっ赤な顔のまま
はだかになりたい
ベッドの上で
パンツいっちょう
はだけた浴衣
へべれ ....
降りしきる
スコールみたいな哀しみを
突き抜けてゆく
Poetry
暴力の間に
道を切り開く
見えない力の
Poetry
愛欲の沼に溺れ
腐った{ルビ屑=くず} ....
寄り添う民は顔を並べ
一つの空を仰いでた
真綿の雲に腰かける
マリアに抱かれた幼子を
逆さのままに
舞い降りる天使等は
丸い顔で母子を囲み
小さい両手を重ねてた
....
{ルビ赤煉瓦=あかれんが}の橋を渡る
傘を差した婦人がうっすらと
遠ざかる面影映る
Cafeの窓
四角いテーブルの前には
文学館で偶然会った詩友が
詩について ....
プレハブの
休憩室の入り口に
日中の仕事で汚れた作業着が
洗ってハンガーにかけてある
ドアの上から照らす電球の
茶色いひかりにそめられて
干されたまま
夜風にゆられる作 ....
日曜の午後
鎌倉の喫茶店で
「 詩人の肖像 」
という本を読んでいた
店内の天井から
ぴったりと静止した
サーカスのブランコのように
ぶら下がる
....
植木鉢に身を{ルビ埋=うず}め
体中に
針の刺さった
裸の人形
{ルビ腫=は}れ上がる両腕のまま
{ルビ諸手=もろて}を上げて
切り落とされた手首の先に咲く
一輪の黄色 ....