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十日前の旅先を思い出そうと
揺り椅子に腰掛けて
手にした「大和路」の頁を開く
一枚の挿絵は
{ルビ夕暗=ゆうやみ}の時刻
唐招提寺の円柱に
そうっと片手をあてる
....
山々の間の空を
喜び一杯に翼をひろげ
流れていった
雀の群
{ルビ翻=ひるがえ}り
枝々に小さい太陽を灯す
柿の林に舞い降りて
無数の黒い音符になった
天 ....
植木鉢に身を{ルビ埋=うず}め
体中に
針の刺さった
裸の人形
{ルビ腫=は}れ上がる両腕のまま
{ルビ諸手=もろて}を上げて
切り落とされた手首の先に咲く
一輪の黄色 ....
朝起きて顔を洗い
タオルで水を拭い
洗面所を出ると
もう
鏡から出てきた
(ねぼけた自分)
が背後からついて来る
朝食を終えて
玄関に腰かけ
靴を履き
開いたドア ....
今迄
子供のように手を伸ばし
あれがほしい
これがほしい
と駄々をこねて
なにひとつ
この手につかめず
「幸せ」はいつも砂になり
指のすき間から流れ落ちた
....