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夜気に退屈をさらけ出すプラタナスが
細い小枝で編んだ投網で上弦の月を引っかけている
葉陰から木漏れ日のように明かりを点滅させて
モールス信号を送る橙色
きっと月の頬には痕が残るほど
....
二重奏が聴こえる
ベースとピアノが語らい合っている
たった今、老年のピアノ教師は華やいだカードを引いてしまったらしい
指先からときめいていく旋律が、ベースのコード転回に絡んでいく
熟年のベーシ ....
雑踏のあちこちに
発生する
ポップな電子音
それぞれの手のひらの中
ぽろぽろと
カラフルな想いをつかまえる
まるでゼリービーンズのよう
人工着色料かけた
ねじれた言葉が小窓にな ....
タンゴの旋律に
呼吸を合わせるように
茜色のロウソクの火が
ゆらめいている
凪だった{ルビ水面=みなも}を掻き立て
眠っていた感情に爪を立て
ゆさぶりながら
身体の中を貫 ....
突然放りこまれてしまった
病院の待合室にすわらされ
時計の針が無表情にすすむのを
昼メロのデジャ・ヴのようにながめる
「ママ ごめんね」
かすれた声の一言で
キミは幕開けを ....
たっぷりとあふれんばかりに湛えて
こぼさないように歩く
ネットの海に棲む詩人が紡いでいる
いつまでも色褪せない
磨きこまれたナイフ
のような綴りに痺れ
少しでも掬い取ろうとつかんでも
手 ....
「別れる日は決めてあるんです」
あどけない顔をして
サラッと彼女は言う
離別の餞まで手に入れた
お人形のような瞳には
背景の妻子の温度は伝わらない
サーモスタットはいつ壊れるかわからないの ....
雑居ビルの中にある小さなライブハウス
彼女が鍵盤に指先を下ろした瞬間
スタインウェイは真っ直ぐに彼女を見つめた
たたみかけるような熱い音の重なり
スタインウェイと彼女の間には
透き間 ....
「ダックス!」
といきなりいわれた
ソファーでひっくり返って
ノビている姿が
ペットショップで見かけた
ミニチュア・ダックスにそっくりだという
あんなふうにやわらかい腹をムキダシで
無垢 ....
ひとひら
ふたひら
黒い水辺の
むこう岸
藍色の闇に
ふわりと浮かぶ
燈籠のような
花明かり
ひとひら
ふたひら
うろこのような
....
親指でしか語れなくなった
指先が覚えてしまったのだ
無機質な凹凸に触れるだけで
整然とした文字が手に入ることを
まっさらな紙の緊張や
そこに落ちるイビツな文字
との格闘も捨 ....
月の清けき夜
折からの澄んだ風が
波のように襲ってくる感情を
鎮めようと
湖面を撫でるように
一陣 通りすぎる
暗い森影からの
ふつふつと湧くざわめきにも
耳をかさず
震え ....
はにかんで笑う アノコの
やわらかな心のヒダを斬りきざみ
助けをもとめるノドブエを噛みくだいた
アノコに突き刺した
痛みと悲しみの
鮮烈な返り血を浴びたとたん
それはドス黒くキミに ....
森林の中
ひっそり潜む
小さな月
あさい眠りの
はざ間を泳ぐ
黒い魚影が
ゆらり と
身体をしならせ
ついばんでいく
冷たい魚の接吻に
吸いとられていく
....
さあ 耳を澄まして 心を静めて
金木犀の香りにだまされないで
こちらをじっと見つめて
あなたの手のひらにのっている
この罪は何の罪?
そう 口を噤んで 囀り止めて
秋桜の可憐さにま ....
孤独な夜の狭間に
行き場を失った
言葉たちが
ゆらゆらと
哀しく宙を拡散していく
握りしめた想いが
指の透き間から
硝子の粒子となって
サラサラ零れていく
染み入るよ ....
終わってしまった
はずなのに
それは密閉した
重いふたの透き間から
かすかに甘くたちのぼる
人知れず心の底に
埋めたはずなのに
かぐわしい記憶の薫りは
ゆるゆると漂い
真夜中 ....
「貴女はご自分に酔っていらっしゃるのです」
思いがけない言葉に顔を上げた
彼は静かに私を見つめて煙草に火をつけた
(どういうこと?)
いぶかしげな眼差しの私に彼はこ ....
なんでこんなに苦しいんだろう
ふうっと息をゆっくり吐いて
何事もなかったように
凛然として前をむく
まなざしは遠くを見つめ
キッとむすんだ唇
力が入ってしまう肩
ヤセ我慢をつ ....