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野原の真ん中に
ぽうっと突っ立ていたら
ノックの音がした
誰からも忘れ去られたドアが
今日も何処かにある
もうそろそろ
出たほうが良いのかもしれない
ノートの隅に書いた
遺書のこと ....
家の中に線路が開通した
これからは毎日
海へと向かう青い列車が
部屋を通過していくそうだ
最寄の駅はいつも利用している駅だけれど
春になったら小さなお弁当を持って
二人で海を見に行こう ....
崖っぷちでお父さんが寝ていた
風邪などひかないように
布団をかけてあげた
ああ、これは夢なんだな
と分かって目が覚めると
崖っぷちで寝ている僕に
お父さんが布団をかけてくれていた
細い腕 ....
踏み切りで電車がすれ違った
「電車と電車がおおまちがいだよ」
坊やは言った
大間違いするわけにもいかないので
電車は最後尾が離れる瞬間
少し間違えてみせた
「あら、間違えちゃったみ ....
道路に似た人がいたので
間違えて歩いてしまった
慌てて謝ると
よくあることですから
道路のように笑ってくれた
よくあることですから
そう言って
許したことや諦めたことが
かつて自分 ....
家に帰ると門が壊れていた
妻と娘が代わりに立っていた
家の中では妻の短大時代の
同級生だった山本さんがいて
食事の準備をしていた
十年ぶりですね、と言って笑った
煮物の味見をしてあげた
....
頁をめくる指に
降る水がある
温度とそうでないものとが混在し
それは仄かな懐かしさで
やがて積もっていく
一月の末日
漢方の匂いが漂う診療所の待合室
あなたはまだ誰にも知られていない
....
下駄箱の中に橋を見つけた
渡りたくなって歩き始める
下を覗き込むと
いる物もいらない物も
等しく川を流れていた
空はどこまでも抜けるように青く
遠くに薄っぺらな虹がかかっている
一度もき ....
エレベーターに乗ろうとして
エベレストに乗ってしまった
家のローンもあと二十年くらい残ってるのに
まさか自社ビルで遭難するなんて
眠ったまま電車を乗り過ごすこと数回
失恋十数回
上司に怒鳴 ....
今日は朝から
角を曲がる犬にたくさん会った
いま目の前を歩いているこの犬も
やがては角を曲がるのだ
君にその話をすると
頷きながら聞いてくれたけれど
僕がどれくらいの角を曲がってきたのかは ....
ランドセルから鉄屑をまき散らし
小学生たちが歩いていく
賞味期限が切れて
生温くなった答案用紙を
噛み砕きながら
テレビで見るホームレスも
ここにはいない
家がなければ居てはいけない
....
割れた小窓の向こうに
子供の靴が転がってる
幸せはいつも
シャボンが泡立ったときの
匂いに似て苦しい
どうしてわたしは
名前を書いておかなかったのだろう
指を動かして
桟に父の旧姓 ....
檻の中には
消しゴムがひとつあった
動かなかった
夜行性
と書かれていた
夜まで待ちたい
君は言ったけれど
その前に
閉園時間になってしまった
帰り道、赤信号で止まった
右左よ ....
僕と同じ温度を保って
こぎ続けられた自転車が
雨を避けておさまってる
一匹の虫がサドルから落ちた
葉っぱしか食べられない虫
それ以外に見当がつかない
貼紙に書かれた
「駐輪場 ....
一晩中齧り続けていたんだろう
プラスチックの値札にたくさんつけられた
君の歯型
僕は茹でたカニをリュックにつめながら
君に謝る言葉を考えてる
遠く列の先では
レジ係の人が自分の仕事 ....
改札口の向こうで
ピアノに蟻が集っている
きっと甘いんだろう
ハモニカを忘れてきた駅員が
時刻表に小さな落書をする
間もなく秋が来るのに
量が足りてないのだ
まだ君と僕とが出 ....
コンビニのレジから
僕らのタクシーがあふれ出すから
春はまた息苦しい
行き先も告げずに乗ると
君の家を通過して
犬小屋の屋根を壊してしまう
料金を体温で支払う
少しのおつ ....
弟がつり革になって
ぶらさがってる
白い輪っかのところなどは
良いつくりだった
揺れるたびに僕はぎゅっと握り
引っ張られた弟は
それでも痛いとは言わなかった
昔からそういう子だっ ....
校庭で担任の先生が
カマボコを食べ続けている
僕らのささやかな幸せを願っている
その向こうの少し遠いところには生家があって
大きな窓から僕の可哀想なお父さんが
目を瞑っているのが見える
....
波はもう台所まで押し寄せている
娘はバシャバシャ水を蹴りながら
学校の仕度に忙しい
妻は膝まで海水につかりながら
朝の牛乳を温めている
もしもの時のために集合場所を決めておこうか
と言 ....
haruさん「約束」
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=98460
たった三行のショート・ポエムなのに、読んだ瞬間から心を捉えて離さない。
....
帽子を覗くと
中には都会があった
かぶることも出来ないので
しばらく眺めることにした
頬杖なんてしたのは
いつ以来のことだろう
自分にも重さがあったのだと少し驚く
風変わりな光景があるわ ....
沼にヘラブナがいるのだ
帰って来るなり兄は言った
それから棒切れのようなものに
糸と針がついただけの貧しい釣竿を手にし
友達と少し遠い所にある沼に出かけた
数時間後、兄だけが帰っ ....
だるまさんがころんだので
うしろを振り返ると
大切な人たちはもういない
草原のように広いものがただ延々と続き
中くらいの動物が
美味しくなさそうに草を食んでる
わたしは組成 ....
僕らの虹が逝った
二人で棺に入れると
弓型に過不足なく納まった
最後まで色たちは
混じることも濁ることもなかった
一緒に入れた物がはみ出ていたので
係の人が少し押し込み
蓋は閉め ....
休耕田に群生する
セイタカアワダチソウをかきわけるように
一両の気動車が港の方へと走っていく
スズメガの幼虫にかじられた痕のある
サトイモの大きな葉が
その風に揺れている
排水 ....
人形の人の死体が
石積みの河原に落ちていた
右ひじから先が無く
首も変な角度で曲がり
埃と泥にまみれていた
見たことのある人の死体は
どれもきれいに整っていたので
とても汚らしく ....
夢を見て泣いていた
スリッパが重たくて
空を飛べない夢だった
食後、健康に良いからと
母親がみかんを一つ勧めてくれた
外に出ると
街にサーカスが来る日だったので
誰も淋しくなどなかった
....
夏のショッピングモールは
何かの記念日のように
沢山の人で溢れかえっていた
前を歩く老人のTシャツに
ウィンクをした大きな
マンガの猫が描かれていた
猫が好きな人ならいいのに
そ ....
月曜日は新聞当番なので
いつもより一時間早く出勤する
業界紙も含めた各紙を切り抜き
部長室分もあわせて十三部コピーする
厳密に言えば著作権違反という議論も
今ではどこかに行ってしまった
そ ....
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