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地下道の便所の前に
何も書かれていない
真っ白な短冊が
くしゃりと折れて
落ちていた
無人の通路に
夜の靴音を響かせながら
便所を通り過ぎる
Tシャツの背中を ....
仕事の後に
友のライブを見ようと駆けつけた
ライブハウスがある
渋谷・ホテル街
時折ぬるい夜風が吹いて
{ルビ娼婦=しょうふ}の亡霊が通り過ぎ
地を這う{ルビ鼠=ねずみ}が路地 ....
仕事でヘマをして
渋い顔で始末書を書き
残業の書類の山に囲まれ
気がついたら午前0時
職場のソファーで
目が覚めた日曜日
さえない朝帰りの道
降り出した雨に
傘も ....
「 生れ落ちた その日から
へんちくりんなこのかおで
わたしはわたしを{ルビ演=や}ってきた 」
という詩を老人ホームで朗読したら
輪になった、お年寄りの顔がほころんだ。 ....
地下鉄の風に吹かれて
灰色の階段を上がる
地上に出る前に
用を足そうと
便所にゆく
入口に
「 只今清掃中 〜そっと入ってください〜 」
という看板が立っており
....
上司の心ない一言に火が点いて
職場のちゃぶ台をひっくり返した日
しょんぼり夜道を歩いていると
通り道のボクシングジムから
ばす ばす と
瞳をぎらつかせたぼくさーの
ひたむきな ....
机に置かれた一枚の写真
若い母が嬉しそうに
「 たかいたかい 」と
幼い彼を抱き上げている
年老いた母は安らかな寝顔のままに
「 たかいところ 」へ昇ったので
彼はひとりぼっちに ....
朝の車の中で
おばあちゃんは
他のお婆ちゃん達に
七色のあめ玉をくばって
僕にもくれた
「 このあめ玉をなめると
元気百倍ですね 」
というと
おばあち ....
A には ○ が正解に見えていた
B には △ が正解に見えていた
お互いは{ルビ頑=かたく}なに抱えたバケツから
激しく水をかけあっていた
ずぶ濡れなふたりの間に
両 ....
電車の中で、野菜ジュースを飲み終えて
空になったペットボトルを、足元に置いた。
駅に着いて、立ち上がると
すっかり忘れていたペットボトルを蹴飛ばして、
灰色の床をからから転がった。
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