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久しぶりに訪れた{ルビ報國寺=ほうこくじ}は
雨が降っていた
壁の無い
木造りの茶屋の中
長椅子に腰かけ
柱の上から照らす明かりの下
竹筒に生けた{ルビ秋明菊=しゅうめいぎ ....
壁に{ルビ掛=か}けられた
一枚の絵の中の蒼い部屋で
涙を流すひとりの女
窓からそそがれる
黄昏の陽射しにうつむいて
耳を澄ましている
姿の無い誰かが
そっと語り ....
雨の降る夜の路地裏を
酔っ払いの男は一人
鼻歌交じりに
傘も差さずに歩く
涙色の音符を背後に振り撒いて
雨は降り続き
路上に散らばった音符は濡れて
よろけた男の後ろ姿は ....
炎天下の路上に
{ルビ蝉=せみ}はひっくり返っていた
近づいて身をかがめると
巨人のぼくにおどろいて
目覚めた蝉は飛んでった
僕の頭上の、遥かな空へ
瀕死の蝉も、飛んだん ....
私は今、七年ぶりに訪れた遠藤周作先生の墓前にいる。墓石の下
に供えた僕の第一詩集「風の配達する手紙」の表紙が夏の日に照ら
され、白い薔薇の影が、表紙の余白に揺れている。私が生けた赤・
白・黄色 ....
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