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夏がはじまる
簡単なこと
色画用紙をぺらりとめくる
緑の次は青
それくらいの
温泉宿はがらんとしていた
白く濁った湯が注ぎ続ける
昼に聞いた滝の音
湯気の向こうに
千切った半紙のような月
ナフタリン
遠い思い出
六月の衣替え
土曜日に雨
二人で聴いたレコード
三度減圧を繰り返した
潜水夫の足取りで起き出す
昼間はほとんど何も見えなくなった
月や星は
正午にも光っているというのに
もうどうせ間に合わないと知って
少年はランドセルを鳴らすのを止めた
土手に咲く花々の名を
どれひとつとして知らない
草笛はこんな風に鳴らせるけれども
エスカルゴ、お前から風が吹く。
かわいらしい風が。
それは兎の足あと
恋人の名前
花火を見つめる子供のかお
エスカルゴ、お前の足あとは銀色で細い。
そんなお前は雨を呼ぶ。
たどたどし ....
ちっともじっとしていない翅
マカロンのような夢の中で
お前が歌うのを聴いた
ピンで止めてもいいけれど
罪はもう足りている
うっすらと閉じた
まぶた(まつげ)から
真白き炎
ああ、彼女は
恋をしている
サキスフォンを右に
極楽鳥を左に
閉じ込めている
晴れた夏の午後開けば
波は歌い始める
深海に降り積もる
白い白い亡骸
音も風もなく
海面に溶けゆく白と白
波は高さを増して
雨の街は花園
ダリア・ヒマワリ・バラ
小菊・紫陽花・朝顔
花たちは楽器でもある
雨の細い指がそれを{ルビ弾=はじ}くと
少女のペチコートのように重なり合う
波 波 波 波
哀しいことでもあるのか
手に取って口付けると
涙の味がする
一枚の薄紙に綴られた想い
恋はま白き薔薇
咲き始めが一番良い香り
朝日に一瞥されると
小さな蝶になって飛び立っていった
たわわに実った果樹のような女
葡萄色の唇から溢れ出る
神への賛美
芳醇なものがグラス一杯に注がれ
陽に照らされた観衆がそれらを飲み干す
薔薇の絡まる門は乱暴に開けられ
木々は悩ましく髪をなびかせる
干したままにしてあった小さなハンカチ
若鳥は驚きによって飛び立ち
二度と戻っては来ない
刻むたびに届けられる
琥珀色の手紙
大理石の文字盤に蔦の模様
年老いた配達人の腰は曲がっている(鳥に似ている)
かの人の面影を受け取る
暗い森の奥深く
僕らは咲きほこる冷たい水を飲んだ
誓いの口づけを交わさずとも
木苺が赤い宝石のように実る秘密の場所へ
お互いをさらっていくことは
カタカナの色名
太陽は波に抱かれた宝石を研磨する
ほてった鱗は月光で冷ます
満月の夜には
珊瑚の産卵が始まる
蜘蛛の編んだ細い網に雫
ひとつひとつに虹がかかり
その上を二人連れ立っていく
時には酔った蝶と芳しい花
時には奏でる風と歌う鳥
すべすべしたビロードの服
きんぽうげは穏やかな黄金の波のよう
美味そうな花粉をぶら下げてお帰り
よく唸る翅は迷わないため
眠る赤ん坊の邪魔をしてはいけない
細い銀の糸で田園は縫われた
少女は短い休み時間に少しだけ眠る
雷鳴が布をいっそう白くし
指貫きを嵌めたままの指が
ぴくりと動く
幻覚者の夜からお前は生まれる
お前の肌は月のように青白い
痛みは甘美な酒などではないが
深く背中に差し込まなければならない
その鋼の翼を