今日が、一日になる
間に合わせの爪先を
朝焼けの海に潜らせる
寝息を、街は敏感に拾い上げていく
遠く聞こえる海鳴りのようだ
*
ただいまやおかえり、よりも
届いて ....
幽かなる種の話
そわりそわりと忍びこむ
小さく微動している夜の心音
紺碧の深さに丸く亀裂が走り
静かに芽吹いてゆく密かな呼吸
たらりたらりとしな垂れる
遠く木霊している風の鮮血 ....
団地の掲示板に
吊り下げられたままの
忘れ物の手袋
歩道に
転がったままの
棄てられた長靴
{ルビ棚=たな}に放りこまれたまま
ガラスケースの中に座っている
うす汚れた ....
スーパーのレジで
おつりのコインを数枚受け取ると
「わあ、お金が増えたね」
と娘は目を輝かせる
自動ドアから出るときも
「あのおばさん、きっと親切な人なんだよ」
ふわふわと歌う
....
透きとおる真昼に
日常が、消えていく
八月に買った青いびいどろは
もう割れた
観覧車に乗りたいと言ったのは
あのひとのほうだった
てっぺんに着いても
世界はちっとも見えなくて ....
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学校アルバムのマツモトによる、自己資金がなくても著書を出版できるウェブ上のサービス。
ただし、
・本が ....
世界一の美女と言われたから僕の世界で一位のひとを映した
ねえそんなことってあるの嘘だって言っておねがい鏡よ鏡
無垢な目で林檎を齧るきみならばきっと蛇にも好かれる運命
血の ....
満水の夜に
感覚をとぎすませながら
無数の魚が泳いでいる
距離と、位置と、
上昇する体温と、
そういうものを
止めてしまわないように
蛇口に口をつけて
あふれ出すカルキを吸うと ....
きみが目を閉じても風は草原を夜空を海を旅してまはる
涸れてゆく泉にきみの瑠璃色の絶唱とわに不滅の予感
雨の駅、雨のバス停、雨の庭。きみが ....
{引用=澄んだ光の菜の花 そうしてかざした手のひら
数を数え飽きたらすぐに ここまで走っておいで
....
満天の振り子時計の催眠術 そしてあなたも地球を忘れ
寝る前に目覚まし時計を仕掛けなさい 冬眠なら苗床でしなさい
哲学者と詩人と恋人達のため囀り止まぬプラネタリウム
窓際の ....
{引用=ことばを生気づける、死でもって。
こもん}
隻眼の雲雀ただよふおおぞらのもとより暗き世界を孕み
やさしさは午後のひかり ....
雷鳴にかきけされてく「さよなら」と微笑みながら消え逝く夏よ
画用紙の上でちぎれんばかり手をふるは向日葵それともきみか
欠けてゆく月も満ちてゆく月も紙一重に映す海鏡
....
着慣したる父の背広ひろげれば 知らぬ匂いの蝶が湧きたり
銀の針に
雨糸通し縫い合わす
宵の衣の白さ哀しき
空揺れる
ブランコ振り子に
時忘れ
むかしと今を行きつ戻りつ
約束も出来ぬきみ待つ日も翳り
小さき溜息
風にさらわれ ....
水槽に知らない虫が湧いているそれはそれとして夏は過ぎゆく
六甲のおいしい水を買い占めてもうすぐ君は火星に帰る
部屋中の精密機器は引き出しへ理工学部の多田君が来る
雨上がり気付かず傘を ....
追いたいと思う心理を知り尽くし残り香すらも残さぬウサギ
いつもはね慎み深い私なの 貴方は特別“私を食べて”
「首を切れ!!」怒鳴るクィーン黙々と従うスペード恋は盲目
30 ....
手をつないで
深いところまで、いってしまった
引いてゆくまにまに
記憶の砂がすれあっては
かすかに音をたてる
ノートブックの波に
毎日つづった、日記
夕立ちをよけて、キスをして、 ....
水鉄砲空に向かって引き金引けば雨とは違うりずむさわかる?
朝露で光る蜘蛛の巣払えども蜘蛛を払わば晴れぬ我が梅雨
魚たちきらめきながら海の底反射の果てのうろこ雲かな
君の名 ....
わが傷は暗黒の形にえぐられて遠い砂漠に見知らぬ人影
{ルビ落葉=らくよう}の赤錆色に濡れひかる秋の位牌の冷たきエロス
長崎のペテスブルグの上海の凍える窓濡れたるすべての窓
....
*
少女からはみでている
魂のゆらぎは
舗道のプラタナスの
青い影の上を
過ぎる一匹の黒猫
そのしなやかな足音は
遠く離れた街の路地で
こだまする
*
透明な空 ....