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人は、降っていきますが
この風はいつも背中にあった気がします
開いた傘だけで飛び出していくことは
難しいこと、と形作られて
それでも
降っていった人たちの行方まで
答えてはくれないのかもし ....
また、新鮮な朝がきて、君はいなかったりも
する。珈琲の香りはどこへ消えてしまった、
というのか。乾燥した部屋に、私が傾く音だ
けが響いた。人は、溶けるのが早い。君が溶
け始めたころは、お手玉を ....
すっかりと丸くなった母の背中を押し込んで
いく、とバネのように弾んで台所へと消えて
しまった。庭の隅で父は、苗木のままの紫陽
花を随分と長い時間見つめている。時計の針
はここ数日で速くなった、 ....
毎朝
燻る私の香りに包まれている
踏み込んだ片足が抜けないまま、明日に来てしまった
靴はいつの間にかなくなって、そんなことにも気付かない
それでも柔らかい、朝は好きだ
コップ一杯のミルクで、 ....
誰も知らない人が隣に住んでいる
もう十日になる、声を聞かないし聞こうとも、しない
私は猫を裏返しにしながら、誰か、がいない遠くのことを思う
もう、春だ
冬はかたちになってしまうから、駄目だ
....
ノックされた窓を開けると
季語が突然入りこんでくる
飾るべき言葉の、持ち合わせがないので
自分勝手に寂しくなってしまう
決められた五線譜に決められた音をのせて
決められた拍手が返ってくる
....
それでも
優しい歌を
優しく、歌えるようになりたくて
手に取った十年前の手紙を
そっと引き出しに戻した
単純なことを
回りくどくする
それについては、僕らは天才で
ついにここま ....
その広い丘にはドアがあって
朽ちかけたドアだけが、ひとつ、あって
その横で佇んでいる、家族だった影が
心を裏返すほどにゆるしたかったものは
自分たちだけ
だった
ドアを開けると道が広 ....
静かに窓を閉じる
終わってしまった映画の後で
部屋の明かりを静かに閉じると
空間が水の中に満ちたようになる
溺れてしまうと、答えは出るだろうか
息継ぎをすれば、漏れてしまうだろうか
....
ポイントは、スロウ
誰かが間違ったとか、テレビが吐き出しているけれど
それが本当かどうかなんて誰にも、分からなくて
無駄なものを省いてきた、そんなつもりの生き方だけれど
結局何も捨て切れて ....
それはもう私の中で始まっていますか
とか、君は問いかけて
僕は聞いてない振りをしながら
大きく頷いたりする
海へ突き出した街へ向かう電車は
青い車体に、菜の花が描かれていたりして
最近 ....
刈り取られた
花々は暮れようにも
暮れられず
風が吹くのを待ちながら
やがて、
朝になります
いつか風、のように
広げた両腕は冷たい、思い出となりますが
その内、に抱えた ....
ちり、ちりり、と
細く凍える氷の心音を
耳元に押し当てながら私は
グラス越しの揺れる景色を
手繰るように眺めていた春でした
くわん、と
頭の、奥の
くわんと鳴るところが私の
大きな ....
実感
いつまで経ってもこの指には絡まない
終わる素振りを見せない工事現場が
点滅する、光を放って街の一部になる
もう、戻れないところまで来ているらしい
この指には何も、絡まないけれど
....
陽射し
薄く引いたカーテンの隙間に漏らしてしまう
黄昏かけた感覚のようなもの
軽く息継ぎをするだけで
空に届きそうになってしまう
力の限り今日を生きると
力の限り力が抜けてしまう
日 ....
何を思い出せば
幸せになれるというのだろう
始まりは
遠い海の底の夢でした
船底を擦るようにして
人は、人は旅に出て行くので
いつか大きな音を立てて
傾いていく私たちのために
....
雨がまた積もっていく
雨音がまた積もっていく
その分だけここは、静かになれる
抱き合うだけの幅を残して
昔の夢のかたちを探り合う
窓を伝う雨粒の落ちる、速さ
遠退いた距離の分だけ、今の ....
足音が
大勢の中に還っていく時
遠くで自転車は雨音の中に忘れられている
少年が
少年のままで頭を下げながら生きていく
そんな時々、あれは私たちが作り上げた
屋根や壁や、縁の無い窓
遥 ....
強く願ったはずのことを
もう、忘れてしまっている
一年前の自分たちを窓から次々に捨てると
とても身軽になれることを知った
ポケットを裏返しても、もう
何も出てこない
ささくれがどこかに引っ ....
見知らぬ人から葉書が届いた
元気ですか、とだけ書かれているそれに
元気ですよ、と応えてみても
一人の部屋は結局一人だった
置いていかれた
この街も、いつの間にか色が薄くなってきている
....
今日が、一日になる
間に合わせの爪先を
朝焼けの海に潜らせる
寝息を、街は敏感に拾い上げていく
遠く聞こえる海鳴りのようだ
*
ただいまやおかえり、よりも
届いて ....
西日の頃には
空は白く霞んでいたらしくて
滲んだ街の、ビルから生える空の景色を
ふうわりと、抜けたくて
前後左右、サングラスの目線で
せわしなく行き過ぎる人たちからは
あの強い、レモンの匂 ....
夜明け前に呼吸が足りなくなって
遠い地名を呼びながら目が覚める
ほんの、少し前まで
そこにあったはずの夢に
花を、植えたい
声の鳴る丘、霧降る峠、新しい駅の三番線
いつか出会ったような
....
絡まり合った人たちの影も
それはそれで綺麗だった
東京
そこから抜け出すと
混雑していた日付が
見慣れない文字に変わっていく
月が、取り残されている
南へ向かう電車に深く沈み込めば
暖 ....
夜は夜のままで、かたち通りに息づいていく
少しだけ回る酔いの、世界の
窓枠から月明かりが零れる
思うままに影の、区切られて
深くなっていく宵の
眠れないと、嘘をついた
流れはそこから、 ....
真夜中に目が覚めて
水道の蛇口をそっとひねると
そこから
海の匂いがする
喉が、渇いていたので
それでも飲み干すと
いろんないちにちが
搾り取られるように抜け落ちていく
冬の海はな ....
いつか
笑い飛ばせる日のために
一枚の部屋に絵を描いている
暖かい一日の始まりと終わり
そこに溶けていく人たちのように
降り積もる行き止まりに
立ちすくむ人を見ている
その背 ....
手を
両手を広げ、そらへ
飛ぶように飛ばないように広げ、手を、そらへ
色々と自由になった気がして
交差点を、待つ
輪郭を見ている
箱の世界にいながら
回転を繰り返すのは
いつも ....
人は夜に音になって
躓かない程度に囁き合うらしい
朝が夜に向かうように
ページを手繰り寄せる
薄い絵の具を
筆の先で伸ばすように心音を
澄ませていく
夢を見る、ことを覚えてからは ....
おはよう
で、今日も誰かが溶けていく
それでも、空を見上げることを止められなくて
いつの間にか、あちこち穴だらけになっている
使い古しの気持ちを手紙に残して
あなたもすっかりと溶けて ....
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