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おかえりなさい、が あったのだよ
ひらけば其処に
おかえりなさい、が あったのだよ
そとから帰って
よごれた手も洗わずに
とってもとっても
温かかったのだよ
....
さくら かんざし
あかねの 鼻緒
ねむりの いわおに
腰かけ
仰ぐ
ちり ち り りん
金魚の尾ひれが
風鈴を蹴る
ちり ち り りん
黄色の帯と
左手
....
せっかくのスカートが、なんて
君は
ふくれた顔で
片手にサンダル
フナムシも
フジツボも知らない
君は
おびえた顔で
片手にサンダル
ここは
たまたまの国道沿い
....
むらさきいろの透明グラスは
この指に
繊細な重みを
そっと教えており
うさぎのかたちの水色細工は
ちらり、と微笑み
おやすみのふり
壁一面には
ランプの群れがお花のか ....
排気ガスの向こうに
こころだけを投げ出せば
いつだって僕は風になれる
鳥にだってなれる
部屋に戻れば
やわらかい布団と
あたたかなシャワー
守りが約束されているの ....
思い出せる涙は
すべて
私のせいであるが故
思い出せる涙は
なんとか上手く
こころに
収まる
思い出せぬ涙は
だれのせいであったか
どん ....
ミラーハウスで求め合わないか
前と
後ろと
右と左と
斜め、っていう曖昧な角度も
加えて
つまりはすべて
求め合う姿は
すべてに映るさ
求め合うふたりに
すべてを魅せる ....
買い物袋から
オレンジが転がったのは単なる偶然で
私の爪の端っこに
香りが甘くなついたのも単なる偶然で
果実が転がり出さぬよう
そろりと立ち上がった頭上に
飛行機雲を見つけ ....
紅さし指で
この唇をなぞっておくれ
宵をにぎわす祭りの夜に
提灯ゆらり
光はたぶんに
正しいものだけ捕まえる
ほら
燃える可憐な蛾がひとつ
短命ながらも風情をもって ....
遠くの丘の教会の厳かな鐘の音が届く
私は
{ルビ如雨露=じょうろ}を止めて
目を閉じた
愛の門出のサインであろうか
永き眠りのサインであろうか
私がこの手に
掴め ....
貝殻を気取る私は
捕獲されるのを警戒する
辺りが静かになった頃
深い深い、おそらく他人には不快と思われる
夜の底にて
ようやく貝は口を開く
ポロポロと子守歌
誰にも与えら ....
埠頭に
群れなす
カモメはすべて
哀しい心のなれの果て
船は今日も出てゆくのだ
海は広いというのに
のぞきこめない
瞳の深さをもって
船は今日も出てゆくのだ
....
まっさらなノートを買った
でも
それだけでは
所有にならない
光のようなシャツを買った
でも
それだけでは
所有にならない
汚さなければならない
涙が出るほどに
渾身の力で ....
寒冷に順応できず
やがて
命を奪われかけて
それゆえ
灼熱
灰と 火柱と 黒煙と
好き好んで
化身となったわけでは無いのに
ただ
寒さに耐えられず
ただ
冷た ....
もともと
あてになる眼ではないけれど
それでも
夕陽の色彩くらいは
心得ている
川辺は 減速を始めている
木立は 瞑想を始めている
鳥達は 安息を始めている
あきらかに夕陽の時 ....