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塀の上で危なっかしく
好奇心の瞳で這っていた
三才の私
新しい家の
まっさらな床を両手で撫でた
五才の私
学校という未知の国へ
鼓動を、高鳴らせていた
7才の私
....
終電前の
人もまばらなラーメン屋
少し狭いテーブルの向こうに
きゅっ と閉じた唇が
うれしそうな音をたて
幾すじもの麺をすいこむにつれ
僕のこころもすいこまれそう
....
三十過ぎて
忙しさを言い訳に
すっかり運動不足の僕は
最近腹筋をはじめた
しばらく鍛えてなかったので
体を起こすたび
床から上がってしまう両足を
しっかりと抑えてくれる ....
畳の部屋に座る祖母が
親父と叔母を目の前に座らせ
「もしも私が世を去った後も
互いに仲良くしなさい 」
と静かに語っていた頃
仕事帰りで疲れたぼくは
霧雨の降 ....
平日の夕暮れ
みすぼらしい服を着た中年の男は
公園のベンチに座り
モネ展の「日傘の女」のポスターを手に
喰い入るようにじっと見ていた
それを横目に歩いていると
前から乳母車を ....
桜舞い散る春の日
正午の改札で
杖を手にした祖母は
ぼくを待っていた
腕を一本差し出した
ぼくを支えに
大船駅の階段を下り
ホームに入って来て停車した
東海道線の開 ....
仏のようなよい人に
ゆるせぬ人がいるのなら
わたしに誰がゆるせよう
あの人がわるい
わたしがわるい
と
手にした糸を引き合い
こんがらがる
日々の結び目
力 ....
毎日ともに働く人が
あれやって
これやって
と
目の前に仕事をばらまくので
わらったふりで
腰を{ルビ屈=かが}めて
せっせ せっせ と
ひろってく
そのう ....
喉が渇いたので
駅のホームのキオスクで買った
「苺ミルク」の蓋にストローを差し
口に{ルビ銜=くわ}えて吸っていると
隣に座る
野球帽にジャージ姿のおじさんが
じぃ〜っとこ ....
丘の上の{ルビ叢=くさむら}に身を{ルビ埋=うず}め
仰向けに寝そべると
空は、一面の海
宙を舞う 風 に波立つ
幾重もの{ルビ小波=さざなみ}を西へ辿れば
今日も変わらぬ陽は ....
昨日の仕事帰り、バスに乗る時に慌ててポケ
ットから財布を出した僕は、片方の手袋を落
としてしまったらしい。僕を乗せて発車した
バスを、冷えた歩道に取り残された片方の手
袋は、寂しいこころを声に ....
父と母と少年と
3人家族に囲まれた
座席の隅の窓際で
車窓に流れる景色を見ていた
( あいするひとにさられたばかりのわたしは
( すっかりかたもそげおちて
( めのまえにみを ....
かみさまは
わたしを いつも 暗闇に
ぽつんと 独り 置いている
遠い記憶の{ルビ彼方=かなた}から
あの日響いた産声に
わたしが耳を澄ますよう
光りあふれる歓びに ....
今日は職場の老人ホームの納涼祭であった。通常の業務を終えた
後の18時半に始まるので、正直勤務中は、「今日は一日、長いな
ぁ・・・」と思いながら働くのだが、いざ盆踊りが始まってしまえ
ば、暮れ ....
私が生まれるより前に
戦地に赴き病んで帰って来て間もなく
若い妻と二人の子供を残して世を去った
祖父の無念の想いがあった
私が生まれるより前に
借家の外に浮かぶ月を見上げて
寝息を立 ....