カタカタと軋んだ音をたてて 五線譜の上に
吐き出されていくのは あの夏のことでした
紙杓子で掬ったあかい金魚を手放したのは僕
とっぷりと暮れた空にあめが降りつづいている
何処かに傘を忘 ....
帰り道に迷って
泣いてる子羊
あの空の羊雲は
違うよ
君の帰るところじゃない
涙を拭いてよく見てごらん
発見はいつも
ほんの足元からはじまるんだ
背伸びをしてると
ほんと ....
私小説というものがほぼ死に絶え、小説はエンタテイメントとして書かれ・読まれ・消費されるものになって久しい。それに対して、詩というものは、未だに“私詩”とでも呼ぶべきものが大半を占めているように思える。 ....
寂しさを紛らわすひとり遊びはもう飽きた
飽きたからといって、呼吸は止まらないし
心臓も未だ体中に血液を送り続けている
黒く長い髪は暑さに弱い
それでもいつまでたっても
迎えはこないんです ....
どうして離れてるの?
何で一緒にいられないの?
さみしくて つらくて 崩れ落ちそうだよ
私を支えてくれてるのは あなただけなのに
こんなに好きで 愛し合ってるのに
やさし ....
ねぇ、アリス
貴女が居なくなっても
この世界は続くと思っているでしょう
ここは
たまたま落ちた夢の国
だから
たまたまなんて
二度と起きたりしないのよ
ねぇ、アリ ....
入院してる友達のために折ってるのと
その子はちょっと淋しそうに
鶴を折っていました
それを手伝おうと
わたしも折ったのですが
できあがった鶴の
羽を広げようとしたとき
その子 ....
イーサ・ダラワの七月の浜辺には
遠い国の浜辺から
いつのまにやら波が攫った
いくつもの言葉が流れ着く
嵐の後にそれを集めて歩くのが
灯台守のワロの ....
私は今まで通り過ぎて来た
広大な荒地の上に黒い血を吐いた
無数の遺体の傍らを
倒れかけた木造の家の
ベランダに干されたシャツが
突風に身をよじらせ
空に飛んでいく様を見ては
鈍い心 ....
わたしは、ほんとうは楽譜なのです
と 告げたなら
音を鳴らしてくれるでしょうか
指をつまびいて
すこしだけ耳をすましてくれるでしょうか
それとも声で
わたしを世界へと放ってくれるでしょうか ....
ムーニールーがありんこを相手取って
裁判をしているころ
お日様は林檎を
真っ赤に染めて
林檎はムーニールーに食べられるのを待っている
カタツムリが雨の中
小さくくしゃみしたけれど
ム ....
悲しい夢を見たあとに
声を上げて泣いてしまったのは
その夢が悲しかったからではなく
その夢が現実にほど近い
記憶だったからかもしれません
昔のことですから
もう数えきれないくらい繰り返 ....
すき、
ではじまり
きらい、
とつづき
くるん、とまわって
また、ひとひら
やわらかなあしもと
あおいはなびら
ゆるり、ふうわり
そのあそびは
かならず
すき、
ではじまる ....
その人は起き上がる
いまだ眠たげな目をこすりながら
一杯の朝のコーヒーを探し求める
たった一杯で
本当に目が醒めるのなら
世界は半日ごとに覚醒と睡眠を繰り返す
整理された場所になるだろう
....
曖昧な物に名前をつけてゆく
切り取ってゆく
詩を書くことは名前を奪うことだ
いままでなかった感情や
世界にツバをつけることだ
新雪を汚すことだ ....
冷気のようで
霊気のようで
炎のようで
誰かに似てる
どこかでお会いしましたでしょうか
そのとき私はどんな歌を口ずさんでいた?
引き出せない記憶の方が多いんだ
携帯電話で話しながら
「近くのはずなんだけど、、、わかるようにスッキップしてみて」
と言われて正直にスキップする僕は
どうしょうもないバカだ
そんな僕を見て
君が笑ってくれ ....
ミルクが欲しい1歳は
男が欲しい21歳に
あっけなく捨て去られる
新しいゲームソフトが欲しい12歳が
プラダが欲しい32歳の
財布から金を抜き取る
夢が欲しい33歳は
安定が欲し ....
夜の浜辺で一人
寂しい叫びを{ルビ宇宙=そら}に放り投げる
震える声は
一枚の手紙となって、舞い上がり
静かな波の唸りの上を、舞い上がり
海の{ルビ面=も}の、
月の光の道の上を、舞い ....
解りません
普通は白衣でしょ、先生
昼休み
今日も先生は芝生の上で寝ている
あいかわらずの黒いコート
先生、白衣は着ないんですか
理由を訊いたことがある
先生はにこり ....
雨にうすく濡れた歩道の中心に
盲人用の黄色い凸凸道が
遠くへと敷かれている
いつもそ知らぬ顔で歩いていたが
凸凸道を求めているのは
よろけた歩みで目線の定まらない自分だった
黒いこ ....
さびしさに
ひざをかかえて
タオルケットははいだまま
「る」の字でねむる
あの{ルビ娘=こ}は今頃
遠い空の下
今夜も誰かに抱かれて
求めあう「る」と「る」を
くみあわせてる
....