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浅瀬に人影がうかんでいた
ゆらゆらと動いているのは髪の毛ばかりで
まだ生きていた父とふたり
はるか野の際をいく船に手を振り
斜面の草をゆらす風に
白い花びらをちぎっては散らした
....
わたしたちのうつくしい夏は過ぎ去り
ただ ぎらぎらとした陽炎ばかりが
道すじに燃え残っているけれど
二度とあうことのない確信は
耳元で鳴る音叉のように
気だるい波紋をいくえにも広 ....
弔いの言葉が捌かれて
彼らはそれを咀嚼する
通約された痛みの淵に
紫紺の{ルビ輪=ループ}を描きながら
桜は
自らの闇に向かって落下する
....
草の葉を噛みながら進んだ
狡猾な蟐蛾の三日月の下
浸潤する夜の裳裾とたわむれ
潮風に臭気をさらして干乾びる
蛇行する隘路の果てには
屠られた白き幽愁
高波に洗われるト ....
世界の片隅で生まれた風は
猫柳の枝を揺らし
水辺に群がる蝶の触手を掠め
乾いた轍の上を砂塵を巻き上げながら
叫びと響きを翼にのせて
つむじとなって舞い上がる
鋭いまでの切っ先 ....
薄闇のなかで煙っているのは
発光するわたしの、産毛にかかる氷雨
ヒールを脱ぎ捨て、アスファルトに踏み出す素足は
ぴしゃり、ぴしゃり
水溜りに滲んだネオンを攪拌する
ぐっしょりと水 ....
同じ一つのものを
別々の名前で呼んだ咎によって
罪なき多くの血が贖罪の地に流され
同じ一つの光によって ....
夜の底を穿つ水音
眠れぬ魂のノクターン
聞いているのは無欲な死人
潰えた昨日を懐かしむ
夢路の扉は閉ざされて
明けない夜の牢獄で
呻いているのは咎人ばかり
その頃 ....
はじけた言葉の勢いで
ドアを蹴って飛び出した
夕暮れの空に浮かぶ金星
ポケットには月の石
言わずにいさえすれば
通り過ぎた一日
ひと言 ....
五月の青い闇の中
私はか細い少年になり
夢の迷路へ踏み入った
白いうなじに風を受け
はだしの足で土を蹴り
煙る街灯はすに見て
ネオン流れる色街へ
....
箪笥のいない夜更けに
わたしは廃屋に棲む四つ目と会う
四つ目を思うとなんだかせつなくて
夕暮れ時からたまらない気持ちになる
廃屋が見える路地まで来たら
心臓が喉元ま ....
私の中で歌っていた
リズムはもう死んで
あとには振子とぜんまいが
解体工場の鉄くず同然に
ゆっくりと瞬目しながら
光の中に溶け出していくのだった
....
(それは罰でしょうか
それともただの汚辱でしょうか・・・・・・)
樹の幹につと掛けられた梯子に登ったのは
愚かさでしょうか
それとも下卑た好奇心でしょう ....
あなたの腹黒い証明を
鏡に映して見せてください
切り開かれた瞳孔は
直視するのを嫌うでしょう
冷たい夜の水底へ
....
ごめんねという言葉 のみ込んで
ただ君の暮らしの一コマ 思い浮かべ
何もしてあげられないこと 少しだけ恥じ
あとはもう 口もきかずに
別々の景 ....