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空と 空のかたちの窓と
空のかたちの音が重なり
幾つもひらくものの内の
悲しいものが言葉だった
小鳥が鴉のうたをついばみ
鴉が小鳥のうたをついばみ
小鳥は鴉に 鴉は小鳥 ....
遅い流れにひたされる街
今日も鏡は隠されてゆく
たましいのないもののふるえを聴く
たましいではないものに包まれたたましい
蜻蛉や蜉蝣
碧い石の眼
空を分け
空に埋もれ ....
青空を白く
音の粒がわたり
とどめようとする目は
まぶしくまばたく
坂を下る陽
みどりを連れて
歩み去る金
指の花粉を
雪へ散らす
海から来た透明が
近づくもの ....
左目の蜂
音を運び
ひとつふたつ
鎖骨に沈み
水音になる
心音になる
傷は多く
果実の匂い
口でふさぐ
はばたきの色
外へ 外へ
去ろうとする色
水 ....
燃える草の原のむこうで
夜は息をしつづけていた
生まれる前のものが羽に包まれ
夜とともに揺らいでいた
かがやきのない星が穴のように在り
風と煙と火の柱を
吸い尽くすように吸いつ ....
三つの蝋燭が
互いを溶かしてかがやいている
まぶしさを覆うまぶしさが割れ
雪に重なり降りおりている
ふせた手帳から漏れ出す音
窓に凍り
窓を作る
花は花に会うため ....
夜の硝子
朝の氷
はやく溶けるのは
(指)
祭壇の上
振り払われた火
煙の行方は
(川底)
ひとつ
かけらが降る
ふたつめは
(手のひら)
....
何も見ない目で笑うたび
雨から低い視界をもらう
ゆるく傾いだむらさきの道
静かに水に追われている道
緑の借りものの背と指が
午後の風を結んでゆく
金と灰と空と火が
離 ....
棄てられた径
放縦の跡
少し斜めの不確かなもの
遠い遠いふるえから
そのままではないそのままに
こぼれながら手わたされるもの
灰が
ひとつのざわめきにつながり
降り ....
冬
中心と空洞
球面と化石
向かいあえない
水の砦
しあわせ
ふしあわせに触れずに
消えるしあわせ
夜の道をはばたく
濡れた鉄の火
曇りの地図が
晴れ ....
雪が
裏側の碧を見せぬまま
降りつづけ
積もりつづけている
光が夜を昇る声
水を斜めに振り向かせる声
器のかたちに流れ去り
ふたたび器に満ちてゆく声
世界を ....
うなじにもいて
みぞおちにもいる
雨はいろんな速さの生きもの
応える声に重なってゆく
肌をついばみ
葉のようにすぎ
甘く指を噛み
飛びたつしるし
強さでもな ....
割れた雨と陽
鳥を揺らす
踏切はつづく
水紋へつづく
奥まる家に
人は帰る
枯れ井戸の石
円く凍る
こぼれ散る音
消えることなく
枝の陰の火
夜を醒ま ....
光をついばむ音のほうへ
川は流れ はばたきを描く
光をそそぎ
光を削る
下へ渦巻く緑があり
土に斜めにつらなっている
硝子の洞へひらく緑
わずかに金の森を映して
....
硝子と氷を踏みしめて
夜は土に息を吐く
解けては昇る渦の音
交わりをひとつ隠し持つ
なにもない洞
失くした名前
夜明けのままに
ちぎるうたごえ
うるむ目の先 ....
雪原の風たぐり舞う銀髪にあるはずもない笑みを見ていた
くりかえし光の行方追いつづけ雪の背骨を駆けてゆく子ら
道に棲む{ルビ静寂=しじま}に映る水の笑 ....
眠ることのできない緑の音が
雪の上にかがやいている
わずかな甘味を
鳥はついばみ
金のうたを聴きながら
粉の明るさを上下する
雨がふたつ
手をひらき
流れるもの ....
落ちては昇り
また落ちてゆく
雪は少しだけ
雪でいられる
傾きが降り
ひとときが降る
音は音のまま
姿を散らす
ひとり離れ
ひとり着き
ふたりにならぬ足跡の ....
窓を揺らす透明を
娘たちの時間はすぎて
雪のなかの双つの道
どこまでも淡く
双つの道
青に添う手
剥がれる陽
いとおしさ 望みのなさ
左の目にだけ降りそそぐ
....
轍に映る
音の魚
午後へ午後へ流れつき
雨のように息をめぐる
偽の季節の声があり
激しく隙間多く震え
水と風の
通り道は濃く
頬をすぎる波
くちびるの波
....
離れまたたく
雨に近いもの
光を結び
ひとつ雨になる
まるい夜が
まるい夜をすぎてゆく
音は森の上に残り
枝を伝い 土を照らす
点かなくなった灯の下で
握 ....
わたる日を得た
静かな笑みで
水は幾度もひらいては
土をひとつ はたりと照らす
色や音をほどきながら
羽は線に飛び去ってゆく
細く軽くなりながら
やがて羽ではなくなり ....
午後に吠え夜に己れの洞に哭く肉の{ルビ葛=かずら}に囚われし我
消えてゆくひとりの時間ゆうるりと道に{ルビ描=か}かれた雨音のよに
午後に墜ち静かに ....
水の上に凍る陽の音
霧の祭が去ってゆく音
緑の底を流れ来るもの
道にあふれ 道をひたす
いきどまりが双つ 手をつなぎ
傾いだ螺旋にはばたいている
岩の壁 土の壁に触れ
生 ....
光のたびに
滴は昇る
音に昇る
{ルビ胞=えな}に昇る
肌色をした袖をふり
雲をふちどりゆらめく何か
あとわずかでわかるというのに
午後は土の影を見つめる
....
凍り重なる足跡を
ざわめきは歩む
うつろいは歩む
こぼれては散る火の
ほころびを縫う
まどろむまぶたを照らす金色
崖の高さだけ離れたところへ
越えて 越えて 波は放つ ....
ほころびをなぞる指さきを
もうひとつの指が追いかける
つゆ きり もや
つゆ きり もや
ふたつ ぬれる
いきもどる雪
手玉 てのたま
三つのやりとり
いさめる声な ....
涙が涙へ落ち
映る雪は昇る
花はひとつ多く
土に消えずに残る
やわらかに覚める
手の甲ふたつ
波と曇の鳥
鳥に沈む鳥
ひとみしり
とおまわり
道 花 原
....
羽の息をし
羽になり
さかしまの空
ひと指とおる
勝ち負け無しの
明るいあやとり
胸からのばし
ふたたびしまう
草のとなり
ふくよかな闇
波紋をつくらず ....
互いに背を向け
曲がり またたき
空と波を
指おり数える
月が隔てる言葉たち
手のひらの海
無数の帆
とまどいは澄む
濁りのあとさき
透明でもなく鏡でもな ....
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