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沈黙をファイルしつづけた理性は
つぶらな意識をふとまたたかせ
早春の空にくりひろげられる
光のハープを聴いている
わたしたちは 底悲しく
わらいあう
そして指をつなぎあい
小径をゆく
菫の花がそこかしこに
ふるえるように咲いている
わたしたちは 歩きながら
優しげに 言葉を交わす
でも気づ ....
時折天井から記号が滴る
灰色の水槽の中には青白い都市が浮遊している
祭壇めいた台の上で
少年はくる日もくる日も
華奢な実験をくりかえす
時々淡いひとりごとを呟きながら
ほのかに ....
いちばん旧い校舎の
さらにその裏
もう誰も見に行くこともない百葉箱
そのそばに菫が咲いている と
君が云ったのが
はじまりだった
ふたりはそれからそこで
いくつかの秘密をかさねた
....
すべての数が
奇数であればいい
あるいは
すべての多角形が
三角形であればいい
それもできれば正三角形で
そんなことを思ってしまう朝はおそらく
何かをあるいは誰かを
探す夢を見てか ....
しんえん と呟きながら
浅瀬をえらんで 辿ってゆく
夢をつたうひんやりとした風が
時折 うなじに触れてゆく
誰かが指をつないでくれているような
そうでないような気がする
深淵
踏み込 ....
やわらかな午後の風が吹きこむ窓のそばの
薔薇色の安楽椅子でまどろんでいる地球に
影をもたない人がひとり そっと近づいて
あえかな接吻をひとつ 残して立ち去った
....
暗示は歩いてゆく
眠りをめぐる回廊を
重ねられた便箋のあいだを
どこかためらいがちな
静かな足どりで
誰ひとり知り合いのないような
それでいて誰もに挨拶をしているような身ぶりで
暗示 ....
アトリエが笑っている
色彩は幾重にも脱皮してゆく
輪郭は幾たびも辷り去ってゆく
窓を開ける
と
浮遊している
さまざまな色や形の椅子たちが
月に照らされ
遠く近く
....
白い楽屋の中
蒼ざめた哲学がひとりきり
鏡の前に坐っている
しばらく目を閉じることと
目を開け 鏡に映る自分の貌を見つめることを
繰り返している
楽屋から舞台への通路には憂鬱な霧が立ち ....
罫線のパントマイムを観測する
午後三時十一分
抽斗の中に漂う真珠色の憂愁に呼応して
ぶれてゆく窓枠
書棚のざわめきが
微笑んでいるソファの方へ吹き寄せられる
白いカップのアールグレイを ....
君と私が会うと
言葉を 眼差しを交わすと
りんどう色の深淵が しずかに生まれてゆく
言葉を 眼差しを交わすほどに
それはしずかに 深まってゆく
二人して覗き込む
そのなかば透きとおった ....
{引用=*四行連詩作法(木島始氏による)
1.先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、あるいは反義語(反義句)を自作四行詩の第三行目に入れること。
2.先行四行詩の第四行目の語 ....
瓦礫に腰かけて
悩んでいる天使がいた
天使でも悩むんだ
と僕は云った
天使だから悩むんだろう
と君は云った
そうかもしれない
どうして悩んでるんだろう
と僕
翼が汚れているか ....
練習船
黒い尖塔
木馬の何頭かを失ったまま
メリーゴーラウンドは廻転している
空はいつでも鋭角
時折少年が墜落してくる
旗竿の上で
燃え尽きる旗
その下でそれでも昏い宴はつづく ....
鋭角的な警鐘が
残像する
私の眺めのどこかに いつも
おそらくあの時から
導音を失った私の音階
私はそれを
探しているのか
いないのか
果たして探すことを許されているのか?
....
ほかの季節は
ただうつろいやがて消え去るのみだが
夏だけは
爛れ朽ち果てそして亡び去るのだ
銀色の太陽が照りつける夏があり
それはもう
うち震えるほどの悲しみに満ち溢れているのだが
私には震えることが許されていない
この夏の中では
私は銀色の太陽に烈しくうたれて
鋭く濃い ....
白くしずかな八月の
午さがりのあかるい部屋である
私はただソファに横たわっている
そして部屋の中空を
一個の檸檬が歩きまわっている
まるで散歩でもしているようだ
いつのまに出現したものやら ....
七月になりたい
すべてを消しつくす激しい雨と
すべてを輝かせるいちばん眩しい陽射しと
{引用=個人詩集「透明塔より」掲載}
夏が来る
とりどりの宝石が波うつような
きらめきとあざやかさを纏って夏が来る
いつもはただのフェイクとしか思えない
この生命にもすべての感情にも
夏だけは流し込んでくれる――本当だと思え ....
暗い空から吊り下げられている
いくつもの虹色の絶望のシャンデリア
時にそれが奇妙なほど
美しく煌いて見えてしまう
灰色の道は沈黙のように続いていて
その上を歩いている
黒いハットと黒い ....
空は仄かに薔薇色を帯びたグレイ
雨は降りそうで降らず
六月の気怠いカーテンを揺らして
私の哀しみを主題する風が吹く
その波紋する緩急を肌に感じながら
ただ横たわっている
あじさいは咲く ....
その午後に
虹色の球体と
銀で縁取られた黒の正三角形と
無色透明の六角錐とが
話していたことは
宙吊りになった中庭に
置く角度を間違えられたまま
置かれている白い日時計のことであった
....
胸の中の灰色の重たるい空に
気怠く浮かぶとりどりの飴玉のような
飛行船の数を数える
数えたそばから何度でも忘れるために
世界の終わりを思わせるほど明るい日
地の果てのようながらんとした広野に
世を捨てたようにひとつ立つ古い塔のそばで
君は僕を待っていた
僕らは手をつないでだまって塔をのぼった
ひょっとして ....
春という季節は
いつでも液状にデフォルメされてゆく
匂い立つ色彩が
にじみ流れ溶けあい渦巻く
私の輪郭もそのただなかに
半ばは溶けかかりながら
けれど決して溶けきることはなく
冬をいとお ....
いちばん古い棟へとつづく渡り廊下は
いつもひっそりとしている
ことに雨の日には
この渡り廊下だけが離れて
雨降る宙の中に 浮かんでいるような気になる
《ここで語り合ったこと
《ここ ....
君という雨に打たれて
私のあらゆる界面で
透明な細胞たちが
つぎつぎと覚醒してゆく
夏の朝
影に縁取られた街路
やわらかな緑の丘
乾いたプラットフォーム
きらめきに溢れた ....
灰緑の部屋で 私たちは
話をしている
天井や壁に貼りつけた
太陽や月や星たちを
そろそろ違う場所に
貼りかえようか と
私たちは長らく
この部屋に棲んでいる
いや あるいは
この ....
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