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まぶしいのは
ずっと目を閉じていたから
そこは優しい闇に似た架空世界で
行こうとさえ思えば深海にも
宇宙にも
過去にだって行けた
あのスカートはどこにしまっただろう
青い水玉模様
....
父母が買った墓を見に行く
高台にあるそこからは
海が見渡せ
なんのわずらいもない風が吹き渡り
小さな飛行機が雲間に光る
このお墓に入ったら
この景色を見て暮らす、という母に
いい ....
朝の光を浴びて
少しぬるみ
世の中のさかさまの文字を
投影している
硝子びんの中の液体の揺らぎに
ひと瓶飲んだら死ぬかなと
たずねても
答はみんなさかさまだから
解読できない
プリズ ....
春が流れていく
みなもに降り立った
無数のひとひらたちは
いたづらに未来を占ったりしない
何にも誰にも逆らわずに
やがて
その先でひとつになる
裏もなく表もなく
命は等しく終わ ....
ふたば
冬の午後
水に挿した豆苗を見ていた
光を食べたその植物は
飛べない二枚の羽を
明日へ広げる
さよなら
星はどこへ還るのだろう
色あせていく夜空
朝の襲来
....
夢の中だったのかもしれない
いつでもおかえり、と
声だけ聴こえた
或いは現実だったのかもしれない
耳の底の小部屋にそれは
棲みついた
文字にすれば水彩
いつでもおかえり
いつ帰って ....
深く眠って目覚めた朝のゆびさきは
少しまだ透明がかって
夜が
見えかくれしている
動いている心臓は赤い磁石
覚醒してゆく時間に
わたしのかけらを
元在った場所に吸い寄せて
願っ ....
キミが折った舟が
わたしを載せて
すべるように小川を下る
冬にさしかかれば
時間が凍らないようにと
祈る
どこへ向かっているのか
きけばよかった
それはたぶん大切なことだったのだと
....
忘れていたことを
ある日ぽっかりと思い出す
潮が引いた砂地で
貝が静かに息をしているでしょう
見ればそこかしこで
生きていることを伝える
そんな穴が開き始めて
私の足裏とつながる
....
秋の横顔は
暮れる空を向き
旅立ってゆく鳥の影を
ただ見送っている
あなたも早くお行きなさい
手遅れにならないうちに、と
バスは来た
回送だった
けれどいったいどこへ戻るというのだ ....
ほこりをかぶっていようといまいと
食品サンプルは食べられない
蜘蛛の巣に囚われた
きのうの夜の雨粒たち
夕刻にはその存在ごと食べられて
また空へ還る
バナナの黒いとこは
食べられ ....
台風のあと散らずにいた
白い小菊の花びらの中に座り
濡れた髪など乾かしながら
やっとひとごこちつく
清涼な香りに
生き返るここちする
草むらで横たわった猫は
生き返らなかった
その ....
夕闇に溶けてゆくまでほおずきは小さな庭を灯すままごと
窓際にほおずき掲げ猫を待つおまえはどこに行ったのだろう
ぴりぴりと外を破れば顔を出すほおずきの内はト或る秘め事
昨日より幸せにな ....
夜のまぶたは
だんだんに重くなる
(誰かの優しい手で撫でられているから)
歯磨きのミントの香りもなくして
完全にこの世界が閉じられて
安らかな眠りを得るまで
安らかな死というものを
ふと ....
朝が来たらしい
いつのまにか雨の調べは遠ざかり
ぼんやりと明るい
そして
うっすらと温かい
光が温かいのは
きっと誰かが決めたこと
光が遠ざかれば また
冷たい闇に抱か ....
月までは案外近い
いつか行き来できる日もくるかも、と
あなたはいうけれど
それが明日ではないことくらい
知っている
人は間に合わない時間が在ることを知っていて
間に合う時間だけを生きてゆく ....
{引用=夜明けのこない夜はないさ
あなたがぽつりいう}
懐かしい歌が
あの頃の私を連れてきた
そして今の私が唄うのを
遠い窓枠にもたれて
聞くともなく聞いている
夜のはてない深さと距 ....
盂蘭盆会
暮れてゆきそうでゆかない
夏の空に
うすももいろに
染まった雲がうかぶ
世界はこんなにも美しかったのですね
なんども見ているはずの景色なのに
まるで初めて見たように思うの ....
ひらひらと横切ってゆく蝶々
つかまえようとして
伸ばされた小さな手
初めての夏という季節の光
街路樹の葉が落とす濃い影
見えない風の気配
蝉のなきごえ
お母さんの胸に抱かれた
その ....
遠くで雷が歌っている夕刻
羽が生えた蟻をみつけた
それは
退化だろうか
進化なのだろうか
いずれにしても
この世界にとどまる現実の形だ
つぶされないうちに
飛んで逃げればいいのに
な ....
猫の喉奥から
小さな雷鳴が聴こえる
やがて
雨が降ることだろう
さみしさを埋めようとして
猫を飼うということを
怒っているのかい、
猫
六月の保護色みたいな灰色の毛は
なでられる ....
うまれたての水のつめたさで
細胞のいくつかはよみがえる
けれど
それは錯覚で
時は決してさかのぼらない
この朝は昨日に似ていても
まっさらな朝である
それでも
あなたの水は
六月 ....
特別なことはなんにもないけれど雨上がり・生きて・アジサイ記念日
しゅるるるる・とわわわわわん・首を振る扇風機が微風で歌う
さみしいと思わぬことがさみしいと気づいてしまう水曜の水
窓と ....
さざなみが産まれるところ
透きとおりながら
かすかに揺れる城が
月明りを映している
{引用=とうめいであることは
ない、ことではないよ
ないことにするには
醒める必要がある
} ....
おひさまと雨に愛された
やわらかなこの地と
地続きだったはずの
荒地をなつかしむ
わたしは
奇跡的にそこで芽を出した
小さな花のこぼれ種
運良くここまで風に運ばれて
のんきに咲いて ....
静けさという音が
降ってきて
{引用=それは
大人に盛られた
眠り薬}
影という影が
今という現実の
いたづらな写し絵になる
いつまでも暮れてゆかない夜があった
小さな公 ....
透明な羽が浮かんでいた
透きとおっているけれど
それは無いということではなくて
小さなシャボン玉は
虹を載せてゆくのりもの
パチンとはじければ
虹はふるさとへ還る
ふいに風
....
月の砂漠のベンチにも誰かが座った体温がある
明るい雨が降る砂漠一輪の誰かの薔薇になりたかった
ダイヤルが周波数を捕まえて指に伝わるピアノ・ソナタ
近くまで来たからちょっと寄ってみたア ....
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