流れ出た血が固まるように
女は動かない
動かない女の前で暫し時を忘れ
見つめれば やがて
そよ吹く風か 面持ちも緩み
――絵の向こう
高次な世界から
時の流れに移ろい漂う
一瞬の現象で ....
耳の奥の海の青さ
朝のまま蝶よ渡れ
俄かに結びまた解ける
気まぐれな踊り手たちの
死の求婚を袖にしながら
ただ風を漕ぎ あの島の
今は盲いた娘の白髪を
露こぼす花となり飾れ
高まる日差 ....
針先で突き刺した
指先から
私というひとつの海を
絞り出すように
私は激しくもとめている
あなたのその、
果てない闇の底に
うつりこんだ私を
あなたは一匹の魚だ
つかまえよう ....
砂地に消え入りそうな輪が
柱の間をすぎてゆく
誰もいない中庭の風
轍の跡を消してゆく
壁にあいた
服のかたちの入口が
白い衣を手招いている
窓に映らぬ 午後の影の群れ ....
口紅をつけた
自分のか誰のかわからない血の赤
すると足元が浮ついて
堕ちた天使のよう爪先で滑るから
慎ましく知的 胸元に
悶えに悶えた腹を割いて取り出した
真珠ひとつ
それでも世界は殺風 ....
水面の夜
水底の鍵
不死と仮定の王国
窓を次々と閉める人
まっすぐな虹の撓むうた
飛沫 飛沫
消えずに重なる
水紋の火輪
羽が降り 羽が降り
雨を覆い ....
語り過ぎるのだよ
いつだって
僕たちは
足したあとで引いた
寒い店で電気ブランを飲む
夜の新宿 昔の女の耳の形で
魂は柔らかく{ルビ凝=こご}っている
お前には情熱というものがないと云われた
....
蒲公英の繊毛には色がある
白色は視覚化されるが
赤、青、紫、橙は花の妖精しか見ることができない
その色によって着地点は既に決められている
人間の心も同様である
人間の妖精は太古に滅んだ
....
氷の橋、魂は密航する、銀竜草、傾いでいる秋の七草、光る星が何万年前の現象なら、光の中にある私の死体は、すでに、星々の冷めた遠景、氷の橋、猫の舌、竜舌蘭、傾いでいる冬の小路、太陽系を縦走する小惑星の発見 ....
年に二度バラを買う
六月と十月 ほんの数本ずつ
ずっと深紅のバラだったが
ここ何度かピンクだったような気がする
バラほど美しい花はない
見つめているとそう思う
自分のためには決して選ば ....
羊羹を冷したような
ピアノの音
しかくい木箱が
引きずって くる
指 ゆび 指 ゆび ゆび
指 指 指 指 ゆび 指 指
指 ....
{引用= かなしみの
直方体は
藍色の布に 屹立したまま
*
僅かばかり
目を凝らすと
覚醒した レールの冷たさ
*
明らかに 二つ以 ....
半月のかたち
窓辺の幽霊
言葉を残し
燃えてゆく紙
四月の彼方
こぼれる花房
けだものは聴く
曇の終わり
わたる風
まだらに碧く
岩ひとり
神ひとり
....
数をかぞえて川まで来たよ
回転木馬は考える
きみはガリガリ苦しくて
きっと神さま軽蔑だ
かんざし付けた観光ガール
カード片手にガイドする
こちらにござるは金華山
来る日も来る日も ....
海は水平線を
鋭利なナイフのように突きつけてくる
想い出は残照の別称であり
水のように浸る憂愁である
夏が去り
海岸には打ち上げ花火の残骸が
寄せ来る波間に漂っている
{ルビ流離=さ ....
{ルビ蛇=わたし}は脱皮した
相変わらず{ルビ蛇=わたし}のままだったが
少しだけ清々しい
肌感覚で世界を捉えている
かつて外界と接し敏感に反応した
主観的感覚と一体だったものが
....
碧く陽の無い朝に引かれる
細い音の線がある
見えない飛沫が
花を揺らす
羽の空が 暗い川を流れる
午後が午後に集まり
吼え声を上げる
窓の滴をすぎる影
....
つめたい水が流れ
ゆられる水草たち
淡色 葉は白く薄く
沈んだ石は絶えず
千年晒され続け
削れる なめらかにすべるように
潤う瞳には 空 遥か天の先は遠すぎて
持たない腕を水の上 伸 ....
いつか完成するだろうか
あばらの中のいくつかの空洞は
満たされて、微笑んで眠るだろうか
脂肪に埋もれる柔和な女になれるだろうか
昔は違ったのよ
と笑って言うことができるだろうか
抱 ....
模範解答(2) 模範解答(1) 模範解答(3)
過去問に復讐する 知らないふりを するあの娘 きりもみになる紙
過ぎ去った問い 本当のことなど知らないいらない 〇一 ....
世界がある
世界がうかぶ
捉えようのない空間
捉えようのない生命
科学的に分析すれば
緻密な世界が
波をうち
熱をおび
うごめいている
体系的に渦を巻き
一定のリズムで ....
青い裂果
光の手中に墜ち
さえずる鳥 ついばむ鳥
文字へと変ずるか 黒く蟻を纏って
大気に溶けだす肉体は祈り
小さな動物の頭蓋のよう
未満の種子 生を宿すこともなく ....
水になってひそむ
死んだ者たちの{ルビ通=とお}ったこのほそい水系に
官能の色彩はすでにない
光りの粒子のように時は流れ
序章のように生誕の時は流れ
星が囲んだ戦場につめたい炎の舌がみえ ....
浮いている
{ルビ圧=の}しかかる重力
月は平衡する
走る遠景を
雨の滴で回避して
狂っている
歩行する緑の
あらがう能役者が噂する
平成の{ルビ螺子=ネジ}
とまらな ....
まあどうでもいい遍歴ですが、ちょっとHN変え過ぎていくつかのHNを同時進行させているのでのでここらで整理しないと自分でも混乱して仕舞いそうなので、遍歴を語るのは自分の為でもあります。
私のここ ....
地に伏していた。身体の自由が効かない。目を開けると、そばに灰色の蛾の死骸が見えた。風でうすい翅がゆらめいている。翅の鱗粉がかすかに光る。蛾の数本の細い脚が、宙をつかみ損ねていた。顔をずらし視線を先に ....