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草が草の記憶を語りだすと
風の結晶はふと風に溶けていく
掌で温めていた卵が消えてしまった時
わたしは初めて言葉を知った
その日の夕方
新しいベッドを買ってもらった
感謝の気持ちを伝 ....
雨の形のまま
わたしたち、地下鉄で
産道を進む
透明に敷き詰められた窓
向こう側に続く暗くて
滑らかな景色
輪郭は線となり
わたしは葉っぱを並べる
あなたは選挙の人にもらった紙が
....
洗濯したシャツを畳んでいると
シャツに畳まれている私があった
痛くないように
関節が動く方向に畳んでくれた
畳み終えると皺に注意しながら
シャツはそっと私をタンスに仕舞った
衣替え ....
部屋に雲が入って
雨に濡れていく、色も形も音も
僕らはどこにも繋がらない二つの心臓
匂いもたくさん嗅いだ
かつては他の何かだったものが
また他の何かになっていく
記憶に触れれば ....
カメラが無くなってから
鞄が手放せなくなった
窓を開けると
春の風とともに入ってくる
都市の景色
潮風のように笑うけれど
指紋はすべて失効してしまった
鞄の中を探れば手に触れ ....
駅が眠っている
私たちと同じ格好をして
そのおかげかと思う
狭くなる
窮屈になる
駅の隙間に挟まったしおり紐
五十六頁、大切なことは書いていない
早朝の停車場線を人が歩い ....
辞書に雨が降り
やがて水溜りができた
海と間違えて
文字たちは泳いで行ってしまう
僕は代わりに
いつか拾った流れ星を挟んでおいた
柔らかいものはみな
今日は朝から倒れている
....
犬も歩けば棒に当たるというけれど
今朝から当たるべき棒が見つからないし
君が大切にしていた犬は
もうとっくにこの世にはいない
手を握り
お互いに年を取ったね、と笑う
話したいことは ....