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雪をふらせる雲を
「ゆきぐも」と呼ぶのだ、と
あなたに教えられて
それが
すっかり
気に入ったので
つい独り言してしまう
「あれは雪雲だろうか」と
冬をうつした窓辺で
わ ....
アパートメント二〇二の壁の裂傷
フラグメントの終焉と彼女の吐瀉物
ポリスの出動はいつでも間に合わない
彼は絶望の寝床にうずくまったまま
ダイヤルの記録は悲鳴のような声ばかり
テー ....
秋と冬の境目の
限りなく冬に寄り添う秋だから
ならべてみたくもなる
あったかいものをしこたまに
{ルビ炬燵=こたつ} 湯たんぽ 綿入れ{ルビ袢纏=はんてん}
焼き芋 甘酒 鍋料理
{ルビ熱 ....
換気扇がぶっ壊れて
機関車みたいな音がする
台所であなたと目を合わせたら
困ったような笑顔がどこかへ旅立つ
暮らした年月を
思い出させるすべての劣化
年をとったわね
夜
....
真夏の鳥取砂丘には
ただ一本の樹さえなく
にぎわう人と数頭のらくだの黒い影を
その茶色の肌にゆらしていた
運動靴を履いてきたけれど
砂に足をとられて歩きにくい
切れる息
額から滴る汗 ....
誰か助けてくれ
と言いながら仰ぐ
空に星星をなくしました
己の燃えかすを投げ捨て
側溝にあるのはドクダミです
晩秋の頃
血を吐くように
楓は赫く染まる
握り拳ほどの肉塊
女は躯に楓を孕んだ
命の蘇生
輪廻転生する魂
春になれば
....
上水の川のほとりの桜水食堂
銀だらの照焼の匂いがする厨房から出てきた
おかっぱ頭の彼女は紅い鼻緒の下駄を鳴らし
橋のたもとのオレンヂ色の街灯を灯す
近くの洋館に咲くタイサンボクが薫る街の角 ....