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花びらを握りしめた
手のひらをそっとほどく
花びらは蝶になり
夜明け前の赤い空へむかって
円を描きながら飛んでいく
*
指先から聴こえる
川の鼓動をたよりに
目を覚ました足で
鼓 ....
握りしめた手のひらがほどけるときがいつかやってきたら
私は何か大きな憎しみに似た罪を赦せるのだろうかそれと
もまた別の何かを求めて自己を握りしめる旅をはじめるの
だろうか。いつかは私一人にな ....
空腹を満たすようにあなたは水を飲む。
水はその身体に浸透し血と混じりあい血の赤い色素を超えていく。あなたのなかの色という色を溶かしこんで、水により透明になったその身体のなかの水は、あなたの毛穴や瞳や ....
唇に針を刺して、
ぐるぐるとかき混ぜる。
歪んだ赤い月が、
いくつもうまれる。
その月のなかに、
あなたが映っている。
人形を抱いた幼いあなた。
小さなあなたは泣いていた。
唇をかみし ....
筆絶した空に浮かぶ星は、
迷路をつくるかのように、
地に落ちていった。
私はその落ちた星たちを、
拾い集めてことばをつくった。
死にながら生きていたことばたちは、
息をしながら低く輝いてい ....
気がつくと、
一面真っ白な部屋のなかにいる。
部屋には窓一つない。
空気がこもっている。
部屋中に白い音がする。
天井に向かって手を伸ばすと、
目には見えない皮膜に触れる。
シャボン玉の ....
もっともっと、
きみをかきたい。
もっともっと、
顔のちがうきみを。
きみはとてもうつくしいのに、
きまぐれで少し意地悪だ。
でもそんなきみに、
ぼくはずっと恋をしている。
き ....
あなたはいつも、
私の前を歩いていた。
私にはそれが、
とても誇らしかった。
はじめて出会ったのは、
高校の入学式。
女子校だった私たちは、
友達づくりに精を出した。
あなたは ....
目玉焼きを満足に作れないあなたが、
一番好きなものは目玉焼きだ。
手元がみえないあなたは、
いつもフライパンの外に卵を落とす。
あるいはフライパンの縁に卵を
重ねて落として、
出来上がる頃 ....
夏が近づくと、
青空が目に染みる。
遠いはずのあなたを、
こんなにも近く感じる。
あなたは、
私の手首に突き刺さった、
血にまみれた硝子の破片を、
一枚ずつ抜いてくれました。
私は、
....
出口のない迷路を、
指でなぞっていく。
なぞるほどに指は増えて、
鉛のかたまりになる。
そんな道を、
幾度辿っただろうか。
いつも行き止まりがあった。
越えようとするほどに、
高くなる ....
乗り込んだとたんに、
眠りが手を伸ばす列車。
眠りの手を掴んで、
ともに溺れようとする頭のなかで、
死んでしまいそうになるのを恐れて、
目を覚ましても、
窓の外は平行線だ。
その平行線の ....
夜の台所で、
テーブルに残った母の湯飲みのなかに、
数ミリ残った酒の水面に映る私を探す。
近づけば近づくほどに私は見えない。
離れれば離れるほどに大きくなる、
蛍光灯に頭が喰われていく。
....
そこは、どこへいっても、
同じ通りだった。
人の声や気配はするが、
誰もいない街だった。
けれどどことなく誰かの眼差しを感じた
誰かが見ている。
街が私を見ている。
この街全体が誰かのよ ....
夏草のなかに咲く赤い花、
黄色い花、青い花、
目を細めたそれぞれの眼差しが、
地の上に咲き誇る。
花よ、あなたたちを写真に撮ると、
世界はなんて平らなのだろうか。
立体に馴れた私たちは、
....
昨日今日明日、
きのうきょうあす、
くりかえして、
くりかえして、
私たちの雑巾はもうぼろぼろだ。
日々雑巾を絞る。
木綿糸で繋ぎ会わせた縫い目からは、
明日の台所がみえる。
絞る手の ....
浮かんでは消え、
浮かんでは消え、
イマージュを繰返し、
私の胸をえぐり抜いていくもの。
ことばとは、憂鬱だ。
生まれてくるまで、
腹痛のような鈍い痛みを孕む。
突き放そうとしても、
....
鳥は、
空を空と名づけない。
鳥たちにとって空こそが、
果てしない大地だから。
鳥たちは、
彼らは翔ぶことを意識しない。
彼らは空を駆けている。
全速力で、遠く、遠く。
魚は、
....
燃えるもえる、
私が燃える。
街は安穏を保ちながら、
流れるながれる、
それぞれの岸に向かって。
燃えるもえる、
私が燃える。
私だけが燃えている。
人々は手を休めて、
それぞれの鏡 ....
思念の淵で息をしている、
私の息づかい。
耳から流れ込む、
目の海の水を、
飲み込んでは吐き繰り返しながら。
呼吸が荒くなる。
海になった私の指から、
あふれてくる思いを、
窓硝子に叩 ....
その肩を掴んで、
どこまでも歩いた。
思念が浮かんでは、
沈みを繰り返した。
私は痛む胸を押さえながら、
水のなかに深く沈む。
たくさんの目が、
目のなかの目を見つめている。
目の ....
たくさんのてのひらが、
胸のうちをなでてくる。
私はその愛撫のあたたかさに、
目がくらみ、
行くべき路を忘れてしまう。
たくさんのてが、
雨を耳にあびせた。
たくさんのてが、
子どもた ....
じゃりじゃり、
雑踏をかみしめる。
私の口のなかは、
色々な音で異臭を放っている。
あなたの声は、
とっておきたくて、
まだ白いお皿の上においてあります。
あなたの声は影のように、
....
脊髄の奥から、
おずおずと孔が湧いてくる。
孔は私の声になり、
私の体は大地へとひっぱられる。
手のひらに痺れを感じて、
見てみると黒い孔たちが、
もくもくと煙をたてて、
涌き出てく ....
のばしすぎた、
左手人差し指の爪が、
引き裂くのは、
私という、
骨を持たないビニールの肌。
人差し指が描くのは、
未知という過去で、
私のいない、
ただ私の香りだけを響かせた
....
何かが走ってくる。
私の背中を目掛けて。
その何かの手には、
何が握られているのだろうか。
追われている感覚を覚えるたびに、
私は自分を切り捨てたくなる。
この腕を、脚を、胸を、鼻を、 ....
唇にできた黒い証を、
たくさんの指が掠めていった。
黒い証は、
誰の手にもぬぐいされはしなかった。
ある日、
舌に同じように、
黒い証を持つ人に出会った。
彼は私の唇を目で掠めていっ ....
叫びたい花の襞が、
指先を突き破る。
突き破られた、
指の皮膚から噴き出した、
花の汁が、
タールのように暗い、
色とりどりの世界を描いていく。
傷つけあうことで、
構築された暖か ....
骨をくわえた、
私になった犬はどこへ消えたのか。
犬は私になったのか、
私が犬になったのか、
窓辺から不意に現れた犬の、
口にくわえられた骨には、
長い髪の毛が絡みついていた。
髪の毛は ....
誰にも見えない皮膚に、
がりり、刻印を刻む。
刻む音すらも、
拙いが深いカーブを描いて、
誰にも見えない私の皮膚を
構築していく。
まるで彫刻のように、
私の胸に、
痛々しくも艶やかな ....
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