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積雪に隠れた
蕾のまま枯れた赤い花
その上を跳ねる
帰る巣を失くしたセキレイが
か細い声で歌う
新しい神話の調べ
誰にも愛でられないまま
続く仕舞が
私の庭で
月明かりの下で
社食から見える
向かいの会社の平たい屋根から
ぽとぽとと
雪のかたまりが落ちていた
そのリズムは
なんだか
アヴェマリアに似ていた
某神様は
奇跡のようなのを
起こしてるのかもし ....
友といさかい冷えた心で乗った電車
開いたドアからはいりこんだ冬の風が
通り抜けていく
二・三歳の男の子を連れた若い女が
隣にすわり 子を膝に乗せる
子の足がずれて
座席のあかいビロ ....
バスの隣の席で 私の名をしきりに呼ぶ男がいる
私には 知らない隣の人
しかも 違う名前で呼ぶから
私を呼んでるとは思えない
隣の男が手を握ってくれるのは
私が寂しそうだからというが
....
さっき、背の高い老人が窓の外を横切っていったのだが
まもなく 横断歩道のあたりで 見えなくなった
花粉の多い 春の 晴れた日
喫茶店には いやみな観葉植物が 所狭しと並べ ....
見上げれば 青い空がある
靴の下 地面の底には また地上があり
私からは見えない 空がある
息できる場所で引力に頼って歩く
いつも踏んでる道のずうっと下は
海かな 河かな 山かな
....
死ぬ場所をどうするか
出稼ぎ組の私にとっては重大な問題である
私は、どこで死ぬのか…
高度に進んだ医学界では
見つけた患者をベッドの上以外で
死なせるようなことは許されない
秋に、 ....
ことばに変換できない
内に断層の捲れ上がる感覚
{ルビ穿=うが}たれた二つの池が風もないのに細波立つ
千も万もの透明な手足を生やしては
縋るものもない空の空を
死にもの狂いで掻き毟る
....
「土地と家の権利書を盗られた」
しまった場所を忘れたのだ
「炊いてあったご飯がなくなった」
自分が食ったのを忘れたのだ
忘却は、現在の妄想を生む
生きていたときには
あれだけ不満の ....
お湯を沸かす
ドリッパーにフィルターをいれ
カップに乗せる
慣れた手つきで、変わらぬ手順で
コーヒー豆をフィルターに流し入れ
慣らし
静かにお湯 ....
俺を呼ぶときは番号で呼んでくれ
58番、それでいい
今朝、こんなに立派な名刺が出来上がったが
所属と役職と名前と電話番号とメールアドレスと
全部要らないから
ただ使用済みの印刷用 ....
わたしに
ゆ という文字を
教えてくれた人は
あたかもそれを
ひとふでがきのように
描いてみせるので
その曲線の美しさに
魅せられたわたしは
日暮れて
昏くなるまで
いくどもそれを ....
今日も明日も
君の幸せを祈り
花や雲を見ては
いちいち涙を流す
この気持ちは恋なのかな
果樹よ
みはたわわか
きょうわたしは帰る
だれもいない故郷
だれも食べることない実が
熟れて落ちて土に帰るなら
わたしも帰る
静かな庭に
沈みおちる
音もなく
過ぎる
....
セバスチャン、これが先割れスプーンよ
僕の記憶はこの言葉を最後に消えている。
豆腐ハンバーグを食べていたのは確かだ。
肉と大豆のコラボに心踊ったのも確かだ。
そして先割れスプーンを手にした ....
指の絆創膏をはがしてみれば
血は止まったものの
いまだ なまめかしく
傷はそこにあった
たった一日
空気を遮断されただけで そこは
色が蒸発したように
あっけらかんと白く
まるで湯 ....