カブールのニュースを見ていた
七つ釦に憧れた少年だった祖父が
「あれは昔のあれといっしょやな」
ふと思い出してつぶやく 諦めたように
いにしえの教えに戻りたい人たちが
キリスト教 ....
夜の真ん中で
じっと声を押し殺す
耳をそば立て聞いている
今夜も誰かが星になる
今夜も何かが旅に出る
君は部屋の真ん中で
指に刺さったトゲを見ている
無数の誰かが屋根で踊る
無数の ....
ともした線香の香りが連れて行く
どこかへ行ってた盆の夜
鏡を見れば どことも言えず
いとしい人の面影がよみがえる
今生の人よりも はるかに多い
過去の死者と 未来に生まれてくる者 ....
あなた の そとがわ は
気前の良い 人間だけれど
わたしは 知ってるの
内側に住む にゃんこ性質
一枚ずつ 薄皮を
ぺりっ と 剥ぐように
朝の 薄氷で
コテッ と 滑るよ ....
地球上に一つしかない
と言われる石を持っている
それをわたしは
手のひらの可愛い琥珀に贈りたくて
釦を押す。 ....
あの頃のぼくたちにイスはひとつしかなかった
半分こして座ることもできたのに
いっしょに座ることもできたのに
団地の狭い庭に桃を植えて
安くて新鮮な桃を食べようなどと
欲を張ったのだが
日当たりは良くないので
おいしい実がなったかどうか
それも分からないまま…
たっぷりの肥料と
水やりをし ....
今夜は義父の78歳の、誕生日。
2才の孫を抱っこしてもらい
僕と妻はハッピーバースデーを歌い
熱燗を注いだ{ルビ御猪口=おちょこ}で、乾杯した後
義父は主賓のあいさつ、を始めた。
「 ....
テーブルの隅に重ねた手紙も
椅子の背に掛けたタオルも
乱されてはいなかったけれど
さっきまでここに猿がいたことはわかった
茶と金の間のような色合いの体毛は
一 ....
ともあれ私のなかに
これだけの鼠がいるのだから
とうぜんあなたのなかにも棲んでいるはず
血液の湿り気を好み{ルビ腑=はらわた}の肉を噛みつつ
身体の{ルビ常夜=とこ ....
深い霧のように
飛沫をあげる
たくさんの雨粒は
花柄の傘が雨をはじく
音が聴こえるあいだに
仕事帰り乙女の
世界を群青色へと
静かに揺らぎながら
変える
遅めの夕食を終えて
す ....
<矛盾>
あなたを殺してしまいたい
でも
幸せにもなってほしいよ。
<矛盾なき矛盾>
本当に大切なものが
なすすべもなく消え去った時
もう残りの人生が余生でしかないと ....
鬱々と
うつらうつらと
やり過ごす時間(とき)
酔っ払って
ふらりふらりと
帰った夜は遠くなり
孤独を求めた結果が
これだ
重い頭に響く
かつての仲間の笑い声
鈍っ ....
パレットの上の赤は、出番を待ってる
白い色と混じり桃色になりたくて
私は私のまんま
本当は赤が好き
燃えるレッドは私そのものだから…
だけどね、
白い貴方が大好きなの
....
ふたりあやとりがしたくて
赤い毛糸をひろげてみたけど
まわりに
ひろってくれるひとはいなかった
ひとは
ひとりで生まれて
ひとりで死ぬんだというのに
ところどころで
どうし ....
可愛がってくれた人が
誰も居なくなった後で
人は死を迎える
訳の分らぬ若輩たちに囲まれて
トボトボと旅立ってゆく
あんたにもいい時があったんだよね
燃えるような恋もあったし
奇跡 ....
後ろめたいことを
ひとつ
打ち明けるとするならば
あなたに気に入られたいと思っている
とおい
まぶしい
記憶の中
あなたの隣りでわたしはいつも笑っている
あなた以外の
....
困難なゆえ
選択肢のない
一本道
簡単ならば
迷いも多い
別れ道
どこいく道か
さらなる道だ
いついく道か
今さらの道
小さく纏まって
生きていくのも ....
ねぇ 覚えてる
あの日助けた子ダヌキ
それがわたしよ
そういって妻は
スカートの後ろから
大きな尻尾を出して見せた
そんなことは
トウの昔にわかっていたさ
私もズボンの ....
桜の葉を胸に抱いて
墨色の風は流れていく
女に似た雨の匂いが 岩間にひそむ苔を洗う
うつむくひとの唇から 知らぬ間にすべり落ちた
わたしの名をだれが忘れずにいられる ....
花ばさみ取ってけねが と
庭からあなたの声がする
走り寄って
手術用具のようなそれを渡すと
あなたは百合やひなげしを
少し摘み取ってくるのだった
花ばさみ取ってクダサイ と
庭か ....
ベランダにビニールシートを広げ
寝そべって星を見た
焼けた地面にぺたりとつけた背中の熱っぽさ
母親は綺麗ねとだけ言った
私は黙っていた
真暗な虚空に私は吸い込まれそうだった
小さな光の粒が ....
俺はね、
飯を喰うために働くんだ
働くために飯を喰うんじゃない
あんた達も、
忘れっぽいから
出かける前に声に出しておくがいい
飯を喰うために働くんだ
働くために飯を ....
遠路
どこまでも続く地平線
歩き続けてればいつかは辿り着くかな
気が遠くなるだけならまだいい
意識失いそうになる程に遠い
ひと気のない荒野立ち止まって
ダメ元で親指を立ててみたけど
日が ....
あつくなるからはやくって
あの人は確かにそう言った
いつものように いつもの温度で
抑揚のない声でそう言った
だから 呼び止めたのだけど
いつものように いつもの温度で
抑 ....
丁寧に裏ごしされた
かぼちゃの色が鮮やかで
牛乳の甘い香りがほんのりやさしい
鍋でことこと温めて
真白いスープ皿に注ぐ
手と手を合わせて
厳かに
ひと匙
口に含んで
こくり飲みこ ....
今晩一緒に飲もう
妥協しない責任感と
妥協できない責任問題
抱え込む難問奇問
偏頭痛なんか薬に任して
真面目に一緒に酒を飲もう
俺は人間が一番ややこしくて好きだから
きっと
俺もや ....
上手く折れない
紙飛行機が
放り込んだ屑籠の
縁から顔を覗かせている
拾い上げて
半開きの窓に向けて
今一度、飛ばしてみるが
盲の鳥のように
あさっての方向へ ....
精神科のスタッフルームで、
あっち側にはいきたくないと、
面接を終えた上司が呟く。
あっちとこっち
異常と正常
障害者と健常者
病人と医者
クライエントとセラピスト
助けてもらう人 ....
蛍の光は ブルーノート ラプソディ
またたくまに いちめんに連絡を取り合い
思いのたけの いのちの一陣の すいみゃくを
はしゃぐように かわもも 橋も 光で覆う
おおわれた わたしや
お ....
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