夏草のなかに咲く赤い花、
黄色い花、青い花、
目を細めたそれぞれの眼差しが、
地の上に咲き誇る。
花よ、あなたたちを写真に撮ると、
世界はなんて平らなのだろうか。
立体に馴れた私たちは、
 ....
ピアノ。
私はいつも、
ピアノが弾けない。
キーボードにならたくさんの、
物語を描けるのに。
私は私のピアノの前に、
いつも立ち竦む。

もう何年になるだろうか。
私が原稿用紙に、
 ....
さらり、さらり、
骨になった粉が、
この手から空間へ流れていく。
さらり、さらり、
手にいれたものはなんだったのか。
なにもなかったのではないか。
私たちは手に入れられないものを手にした。 ....
目を瞑ってはいけない、
口を開いてはいけない、
手の足の動きを止めてはいけない。
あなたはそうやって、
私の心の肩を切り落としていく。
そうして切り落とした肉を、
壁中に張りつけて。
あ ....
昨日今日明日、
きのうきょうあす、
くりかえして、
くりかえして、
私たちの雑巾はもうぼろぼろだ。
日々雑巾を絞る。
木綿糸で繋ぎ会わせた縫い目からは、
明日の台所がみえる。
絞る手の ....
めをこえて、
みみをこえて、
のめりこむ。
めりめり、のめりこむ。
目の縁の涙腺に沸いた黄色い虫が、
ぐるぐるまわる。
痒みは好奇心のうねり。
うねりを掻き立てる爪を、
 ....
浮かんでは消え、
浮かんでは消え、
イマージュを繰返し、
私の胸をえぐり抜いていくもの。
ことばとは、憂鬱だ。
生まれてくるまで、
腹痛のような鈍い痛みを孕む。
突き放そうとしても、
 ....
私は黒いものが好き。
私は暗いものが好き。
黒さには深い果てしなさがある。
黒い果てを降りていくと。
暗く真っ赤な川がある。
川には熱がある。
この熱からたくさんの物語が生まれる。
私も ....
スマートフォンを開くと、
差出人が不明のメールが入っていた。
タイトルはなかった。
ただひとことだけ、
(あなたのなかのあなたについて話してください)
とあった。
私は返信しようかするまい ....
鳥は、
空を空と名づけない。
鳥たちにとって空こそが、
果てしない大地だから。
鳥たちは、
彼らは翔ぶことを意識しない。
彼らは空を駆けている。
全速力で、遠く、遠く。

魚は、
 ....
石ころが、道の真ん中に落ちている。
いや、石ころは道の真ん中に立っているのだ。
彼には目も耳もなかった。
ただ、感覚だけが、
虫の触角のように鋭かった。
彼は大地の熱と風の愛撫を糧に生きてい ....
燃えるもえる、
私が燃える。
街は安穏を保ちながら、
流れるながれる、
それぞれの岸に向かって。
燃えるもえる、
私が燃える。
私だけが燃えている。
人々は手を休めて、
それぞれの鏡 ....
この目には見えなくても、
手だけはいつも知っている。
手のなかの目。
感度は光よりも早い。
この手が汗ばむと、
何よりも危ない未来への暗示
のなかにいる私。
どこに行くのかわからぬままに ....
夜の瓦礫のなかを、
一列になって進むものたちがいる。
彼らは月の足音を合図に、
前へ前へと進む。
彼らには声や息づかいはない。
左右に振られる二本の目が、
彼らの骨であり、生きだ。
彼ら ....
感覚が感覚を呼ぶ、
空気にのせた音というもの、
私の声が、
はらりと涙のように、
紙の上に落ちると、
私の声はさかなになって、
紙の上を泳ぎだす。
そしてひとつの感情を繋げて、
物語を ....
目の前に、
どろどろとしたへどろの塊のような、
いきものが現れる。
いきものは異臭を放ちながら、
目だけをぎょろぎょろさせている。
いきものは何も言わない。
よく見るといきものの身体には、 ....
思念の淵で息をしている、
私の息づかい。
耳から流れ込む、
目の海の水を、
飲み込んでは吐き繰り返しながら。
呼吸が荒くなる。
海になった私の指から、
あふれてくる思いを、
窓硝子に叩 ....
視界にはたくさんの目がある。
開いた画面に浮かぶ目玉は、
口になって牙を剥き出している。
口になった牙を生やした目玉が
私の目を喰らおうとする。

瞬きひとつでページをかえると、
今度は ....
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
(肉ガ欲シイ、肉ガ欲シイ)
灼熱の太陽の光さえ届かない、
湿った森の奥で、
ごろごろごろごろ ごろごろごろごろ
(肉ガ欲シイ、生キタ血肉ガ)
喉を鳴 ....
生まれては弾いていく、
いくつもの過去たちの脱け殻の
奥には必ず触れなくてはならない
真実がある。
その横たわる真実の瞼の裏側の、
顔を見つめなくてはならない。

目を閉じた瞼の裏に映っ ....
その肩を掴んで、
どこまでも歩いた。
思念が浮かんでは、
沈みを繰り返した。
私は痛む胸を押さえながら、
水のなかに深く沈む。

たくさんの目が、
目のなかの目を見つめている。
目の ....
何かの気配に目という耳を澄ますと、
背後に誰かの指をみた。
振り返ると、
目から耳を、
耳から指を、
指先から声を垂らした、
私が立っていた。

私の指先から垂れる声は、
ひどく力な ....
喉のおくに、
何かがからみつく。
潰れた声がでる。
声は声ではなく、
毛を生やして、
毛孔から這い出てくる。
たくさんの、
得たいの知れない、
毛玉が這い出てきて、
私をとりかこむ。 ....
いつからだろう、
胸になにかができたのは。
胸のなかの何かは、
柘榴のように真っ赤に青い。
柘榴のなかにはちいさな
部屋があって、
その部屋のなかには、
ちいさくなった私がいる。
 ....
たくさんのてのひらが、
胸のうちをなでてくる。
私はその愛撫のあたたかさに、
目がくらみ、
行くべき路を忘れてしまう。
たくさんのてが、
雨を耳にあびせた。
たくさんのてが、
子どもた ....
チューブを流れる水流のような
朝の通勤路を、
外れて、
うつりこむ硝子のなかに
入り込みたくなる瞬間がある。

ばたん、と、
荷物を落とした、
そこから私の旅がはじまる。
硝子が割れ ....
じゃりじゃり、
雑踏をかみしめる。
私の口のなかは、
色々な音で異臭を放っている。

あなたの声は、
とっておきたくて、
まだ白いお皿の上においてあります。
あなたの声は影のように、
 ....
脊髄の奥から、
おずおずと孔が湧いてくる。
孔は私の声になり、
私の体は大地へとひっぱられる。

手のひらに痺れを感じて、
見てみると黒い孔たちが、
もくもくと煙をたてて、
涌き出てく ....
のばしすぎた、
左手人差し指の爪が、
引き裂くのは、
私という、
骨を持たないビニールの肌。

人差し指が描くのは、
未知という過去で、
私のいない、
ただ私の香りだけを響かせた
 ....
何かが走ってくる。
私の背中を目掛けて。
その何かの手には、
何が握られているのだろうか。
追われている感覚を覚えるたびに、
私は自分を切り捨てたくなる。

この腕を、脚を、胸を、鼻を、 ....
あおい満月(409)
タイトル カテゴリ Point 日付
夏草自由詩216/5/5 15:42
境界線自由詩4*16/5/5 15:41
呼吸自由詩4*16/5/4 19:08
心の肩自由詩4*16/5/4 10:37
自由詩616/5/3 20:41
黄色自由詩216/5/2 22:54
空の十字架自由詩516/5/1 19:22
黒い手自由詩516/5/1 0:40
あなたのなかのあなた自由詩116/4/29 18:48
遠く深いものたちへ自由詩716/4/28 22:23
心のかたち自由詩216/4/24 15:35
ほむらたび自由詩116/4/22 20:52
マイム自由詩216/4/21 21:08
砂時計自由詩216/4/20 20:39
ワイン自由詩216/4/19 21:40
へどろの街自由詩116/4/17 19:50
風景自由詩516/4/17 19:47
缶詰自由詩11*16/4/15 9:07
ヒトクイバナの心自由詩2*16/4/15 8:48
さくらがい自由詩316/4/5 22:08
海を噛む自由詩316/3/27 14:36
指先の声自由詩5*16/3/27 12:43
孵化する声自由詩616/3/8 20:52
白い増殖自由詩4*16/2/29 21:51
喝采自由詩12*16/2/28 19:23
赤い砂浜自由詩516/2/28 12:58
こえ自由詩1216/2/21 9:47
鼻の鏡自由詩716/2/15 14:02
声のない唄自由詩616/2/14 14:21
仮面の裏自由詩416/2/13 22:49

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