いつも留守のあいだに
ぼくのポストにたてかけられている
回覧板には
いくつもの恋の終わりがのっていて
ぼくはその欄を見るのがとても楽しみ
恋は突然に始まり
ある日うそのように終わってし ....
背の高いやせっぽちのぼくのともだちが
しろい坂道をくだってゆき
曲がり角を折れてそのまま
消えてしまう
そんな夢をみた
ぼくは追いかけなくちゃと
いっしょうけんめいころがるように
追 ....
灰皿に煙草が一本
ショーペンハウウェルを読んで
明けない夜を明かす
ひとりが楽しければいつでも楽しい
灰皿に煙草が二本
ジャズの好きなあなたの背中に
人生のようなしわが寄り
ふたりが ....
おとうふやさんに
おとうふかいにいくのよ
あたまのうえに
ぶりきのせんめんき
のっけていくのよ
わたしのおとうさんはおかねもちよ
わたしのおかあさんはびじんよ
たくさんのおうたしって ....
ともだちだって
しょうこをみせてって
メロスの本を閉じながら
あの子がいった
しょうこなんかないよ
しょうこなんかないから
ともだちなんだよ
ぼくはどもってそういった
そういうふう ....
ちょっとだけ
きれた牛乳を買いに
近所のコンビニまで駆けてった
帰ってくると
ドアにはさまれている紙きれ
『ご不在でしたので持ち帰りました』
誰からの届けものだったのか
....
定食屋で父さんに会った
夏の自転車の帰り道
カツ丼は四百五十円で
ビールの中瓶がいまどき四百円だ
中年夫婦がふたりでやっている
僕は窓際に追いやられ
誰も悪くはないとただ一日つぶやき
....
失恋科に行きました
片想い病棟でした
おんなの先生でした
症状をかきました
くちをあ〜んとあけました
むねをとんとんとたたきました
注射してください、と頼んだら
その必要はありません、と ....
目が覚めたら
雑巾になっていたらいい
汚れていくのが仕事だから
ただ汚れていけばいい
そして
ボロボロになって
捨てられてしまえばいい
だれかのことを
きれいだなんて
すき、だな ....
クーラーをつけると
ぼくの部屋は涼しい
六畳一間で生まれて初めてのクーラーだ
どんなに暑くても
すっぱだかで
眠れなくても眠っていたのに
ぼくも贅沢な身分になったものさ
クーラー ....
書けない日の日記を
どこに書こう
雨の窓に
夜の雲に
扇風機の風に
ゆびで書こう
しあわせってなに?
聞けない質問のこたえを
なにに聞こう
ドライフラワーに
飲み残 ....
好きな人に
好きって
「告白できる」日が
人生のうち何日あるだろう?
死ぬ間際に考えてみるといい。
それはほんの何日かだよ。
両手の指ほどもないはずだよ。
それは幸せな日だよ。
....
河原で雲を売ることにした
商売は一にもニにも場所だよと
商売などやったことのない親父が
いつも言っていた
場所は悪くない
多摩川は人気の多いところも少ないところも
選べるし
ぼくはど ....
真夜中にもう会えない
飛べるよぼくは
ピーターパンで
言ったろきみは
ティンカーベルさ
かなしいきもちは
ぼくのそばへ
ぼくのそばにおいて
きみは魔法を
投げておいで
結ば ....
おいっこが吐いた
顔を真っ青にして熱を出して寝ている
幼稚園があんまり嬉しくて
むちゃくちゃにはしゃいで
遊びすぎたらしい
じぶんの体力やエネルギーの限界を知らないから
倒れるまで遊んでし ....
お見合いしないの?
って、長いつきあいのおんな友達に聞いた。
「しないよ、どんなの来るかわかんないじゃん。」
いやなら断ればいいんじゃん。
きっとさあ、
銀縁メガネでさ。
市役所の市民 ....
カレンダーをめくると
五月と
六月のあいだに
もうひと月あった
Jumay
と書いてあった
じゃあ
Jumayのあいだに
病院いって
六月になったら
元気になっておいで ....
きのう木星で
くるはずのない電話を待っていた
土星の輪にちりばめた宝石は
帰って来ることのない
遠い遠いおもいでのように
押入れでみた走馬灯のように
はるかな点滅と軌道をめぐっていた
....
暗い人をみたら
いつも尊敬しなさい。
父さんはいつもそう言っていた。
南の島へライオンを助けにいったきり、
かえってこなかった父さん。
明るい人がぼくは好きだ。
明るい人はなんてすてき ....
よるのアコーディオンが
カーテンのようにとじられて
くすだまわれた
こどももわれた
ぐずぐずにくずれてみずにながれた
すいかのように
もろすぎた
ひみつたんていのおじさんは
コート ....
益々体内カレー度が増した
立食の仮面舞踏会でも
カレーこそ我らが主役の座を
乙女のように射止めた
イトメタ星からレオンはやってきた
インド人は初雪のなかだった
とてもインド人だった
あふ ....
ヒトラーの「わが闘争」を
いつもポケットに入れていた
まるでサリンジャーの小説の
脇役のようなH君から
十二年ぶりに電話がきたのは
二年まえのことだった
十二年前H君は中国人の留学生に ....
つくりかけのビルが
アパートの三階の
ぼくのへやの窓から見える
深夜にジャズをかけながら飲めない酒を飲む
カーテンをあけて
ビルの屋上のクレーンのさきっぽが
赤く点滅するのを肴にして
....
ひとりの人に
ひとつのサイズだけがある
それはごまかせない
じぶんじしんしかだますことはできない
ちいさすぎる人がいる
それがぼくではなかったのは
ただのぐうぜんなのだろうとおもうと
....
世界のこのうつくしさを
どうして
うつくしい声でうたうことが
できるだろう?
しわがれ声でうたおう
だみ声でうたおう
つぶれた声で
泣き声でうたおう
ぼくらはきみのことばはしんじな ....
ぼくのもっとも尊敬する詩人は
F君である。
F君は現在ガソリンスタンドで働いている。
そこがどこであろうと
まるでそこがカリフォルニアであるかのように
真っ黒に日焼けして。
F君の詩を ....
むかし、俺に親切にしてくれた人がいた。
初めて入ったそば屋のおばちゃんだ。
俺は浪人生でひどく痩せていた。
まるで勉強ができなかったので、
ひとつも大学が受からなかった。
どうやっても勉強な ....
いちばん
すぐれた楽器は
わたしたちの耳である
どんな音でも
鳴らすことができる
もっと
すぐれた楽器は
わたしたちの心である
どんな音でも
きれいにすることができる
....
あかるすぎるまちのネオンに
いっぽんずつの
ロウソクをともして
まわりたい
ひとつのヒカリには
きっと
ひとつのクラヤミを
あげたい
きみのクラヤミに
きっと
ひとつのロウ ....
かなしいときはいつでも
文房具屋さんへゆくの
駅前のデパートの一階へ
夕暮れに自転車にのってゆくの
いろとりどりのペンで
ためしがきができるわ
あの人の名前を思い出さないように
一筆 ....
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