背筋を伸ばして立つ
その人の目は前方の二番ホームがある背景へ
据えられている様に見えた
腕まくりされたワイシャツ
右手が口へ運ぶ平たくて長いパン
大口でかぶりつき頬張って噛む ....
糸杉に ゴッホは何を見たか
古めかしい中世の かびの匂いを見たのか、
裏切って去った恋人に
報復しようとする女の歯ぎしりを見つけたのか、
糸杉の先端の望む所
何となく ....
酔った男が管を巻いている
青い月の光の中に
しわがれた声で管を巻いている
ヨロヨロと時によろめいて
松の根方に坐りこんでしまうのだが
男の声は途絶えない
月の光りの流れの ....
鮮やかな曲線をのべながら
明けそめる五月の湖
暁のシルエットで影絵になる街路樹
炎うつす水鏡と 空は
うっすら みずいろさすらわせ
私を惹きつける
思い出せない遠さの ....
京阪電車の踏切渡った坂道で
目に付く酒房の黒い看板
『道草』は
今朝も眠りについたまま
道幅せまい通り
店とは反対側を歩く私は
人の流れを避けて立ち止まる
登校 ....
稚くて
美しくて
二人には白い花びらの開き切らず咲く
真ん中だけ ほんのりピンク色に染めた
薔薇が似合う
交わす口づけもさわやかに愛を誓い合った
いつか二人は大人 ....
繁華街は夜になれば
ネオンが真向かいから躯にしみ入って来る
路地に流れる舗装された浅い溝の様な川の側、
一軒の隠れ家的な 名曲喫茶があった
水曜日になると
ねずみ色のスウ ....
よる
音が 音に渦をなし
風が風との
谷間をなして
私が 私のゆめを捨てる
二十三時ごろ だったと思う
玄関先でスニーカーを履いていたら
「ノンちゃん、僕だけど。」 ....
ビルの谷間に皐月風
それは歩道の正面から運ばれてきた
若い男の声だった
パパなお前のキモチ分かる。分かってるから今日ユラちゃんに謝ろうな。
ギョロリとした目に たらこ唇
....
人なんて 一緒に食事してみないと分からない
お酒を飲める人ならば
呑ませてみないと分からない
いつもそう 思っているが
同僚の彼女は呑ませてみても分からない
生ビール中ジ ....
あれは満月に近い
月の創り出す道が湖面に伸びている
瞳に 孤高の道だと分かっていながら
光って見えてくる
湖上の月はいつも
私の側にいて
前進することに迷い怯懦する夜
....
近所の大手スーパーの出入口横手に
地元農家の主婦たちによる行商で
人集りができている
休日 何とは無し
その溢れる活気へ混じり気分良くのぞいてみる
あれ?もう無いの、 ....
泉涌寺の
楊貴妃観音
のお堂の前に
春の日が暮れて
ほのぼのと薄く紅
開きそめて囁く枝の
下に 微かな響き伝え
息づいている空気が在る
遠い春雷の 音ない震え ....
気持ちの不安で落ち込んだり
あるいは高揚感に落ち着きの無くなってしまう時
深呼吸する
そして私はシングルポイントの六角柱水晶を握る
掌の柔らかい部分に三辺の角が当たり心地良く
....
ペールベージュのストッキングの脚は歩く度
踵に隙間のできるパンプスが
擬音で表現しずらい音を立てる
そのアレグレットな足音に
澄んだ媒介を感じとって
追い抜かず 私は着いて ....
それは直径十二センチのバースデーケーキだった
スポンジ全体に
塗られる甘みをおさえたクリームと
細かいおろし金で削られたホワイトチョコレート
が、一面に振りかけられて
まるで遠い ....
会社では広大な敷地内を 車と自転車が往来する。
歩行者には「さわやかあいさつ通り」と名称される
アーケードの歩道が設けられている。
東の正門で守衛室に社員証を提示しても
配属先の ....
自宅でお留守番するウサギは
あちこち破れたからだを丁寧に縫い繕われた
ぬいぐるみ
社員食堂で晩ご飯を済ませ帰宅する暗い空間
蛍光灯が点くとよろこぶウサギに
ただいま を言 ....
つよさ増してきた街路樹の木漏れ日に
手をかざすこともせず
信号が青になるのを待っていた
車道、瞳に写って忽ち忘れゆくものあり
そして横断歩道の白線部分へと進み出る
私の影 ....
あのトマトジュースが飲みたいわ!
それは缶やペットボトルで売っていない
ある喫茶店で飲んだ
初めての味
こっからだと、ちょっと歩くけど大丈夫か?
夕刻にはまだ早い「 ....
にこやかに前を歩く私の後ろから着いてきてくれる
あなたの足取りはまるで
デパートの屋上へ遊具目当てにやって来る幼児の父親
やっぱり、ここからが一番綺麗なのよ!
自慢げに私がそう言 ....
或日 遠い湖北の外れ町
心を病みどこへとも行くあての無い
たびの子が街からやって来た
幼すぎるその子に
ある禅寺のご住職が暫くの宿を
貸すことにした
親元を離れた日 ....
二人 行きつけの飲み屋では
入口から一番奥まったカウンター席
三杯目のグラスを掴み取り
頬張った氷ひとつ
噛み砕く彼女
大腿骨を一度骨折してから足腰が弱り
本人は自覚を ....
雨の止んだ朝
影を含んだ滴が
街路樹のてっぺんから
次第次第にころがって
葉っぱをかすかにはずませていた
背の高い少年が二人
昨夜みた夢の話か
声を低めてさわやかに微 ....
月の出の頃
舗道が西へ向って遠遠とのびていた
この途 にも果はあるのか?
あれは人気観光スポットの側にあるカプセルホテルの様な
街路樹の一本
椋鳥が まるで人の心もおど ....
真四角の建物の谷間
冷たい雨が、
寄り所ないコンクリートの壁に爪を立てて
のぼり始める
赤く黒く
その身をやき尽くそうとして
一足一足いらだたしげに登り始める
どこ ....
ベランダ打ちつける雨音
レースのカーテン越し鳴り響くものが
西の空も
東の空も
緋色 噴き上げ
花火の様に開いていた
湖に ぴかっと光った一線が在るだろう
そこに連なる峰 ....
歎くべきだっただろうか
みずいろの空が
私の上に落ちかかって来るのを感じた時
心は
果のない
重量感のない
依リ所のない
空の中に巻きこまれて
小さなわたしが
....
改札口を出ると いく筋もの河が流れる
灰色の淵に浮かび
すべらかにいく青をみつけた
水の歌
三月も終りの
生暖かい大気に 還ってゆく
透明な
水の歌
だが ....
春 おそく
雲低い空の下
裾のほつれをまといつけておいた
小花柄のフレアースカートはいて街へ出る
図書館の帰り、線路わきの公園で
ひとり眺めみる
八重桜
ぼったり ....
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