最期を迎えるならば

 例えば
 深い深い夜
 病室のベッドに居て
 国道一号線走る運送屋の
 大型トラックの音に
 ただ耳を傾ける事の出来る
 そんな自分でありたいのかもしれない
 ....
 すぼんだ花が
 いやにいとしくて
 捨てられずに
 眺めていた

 去年の春 と題して
 絵をかいた

  いやな女ね あたしって
 
 煙草がいたずらに灰になるのを見ていた
 ....
 蝉の声に讃えられている
 誇らしげな 夏
 そして 私の傍ら走り去る
 一陣の風

 人通りない交差点
 銀輪またがる その人の姿を目にした途端
 足が止まる

 肌に まとわりつ ....
 ある女が 酒房に惹かれ
 やかましいその片隅に
 毎夜坐っていた

 沈んだ目が時折光る時
 女はカリカリと氷をかみ砕き
 強い酒に挑んでいる様に見えた

 何日かすぎた頃
  ....
 
 あれが あなたでしたか?
 傘をささずに濡れた舗道を歩いていた
 男の人

 何処か 空中を見詰めている様で
 視線をたどってみたのですが
 何もなかったので

 変な 人だ  ....
 神への歌を忘れ果てた犬が
 夜を彷徨う
 細い脚が痩せこけた腹を支えて
 乾いた目をまっすぐ下に向けて
 舗道を行く

 俺のねぐら
 俺のねぐらは何処か?

 彼は思う
 ....
 半月のゆらめき昇る時
 哀れにも
 恋の嘆きのリフレーン

 がらんどうの
 もはや、夢をつくり得ぬ
 心

 何もかもが
 その中で共鳴するから
 全てが 一様に化合さ ....
 祇園の石段の上から
 灯の街を眺めさせたいと
 私の腕をむりやりつかんで
 つれて来た あなた

 遠い異国の昔
 王宮の血汐がはねあがった日
 革命の巴里祭
 そして日本では祇園祭 ....
 アタシって
 このマンションロビーのガラス張りな壁の隅で
 時たま 糸垂らしてるわ

 アタシが植え込みの陰で寝てる間に今日
 プレイロットに大きな笹飾りが持ち込まれていてね
 夕飯時さ ....
 会社の大会議場のお客様控室に
 ちょっとアンティークなドレッサーがある
 清掃に入ると鏡を拭くついでに
 ヘアスタイルを確認したりしてしまう

 くもりない三面鏡が私を映す

 一面に ....
 午前七時三十七分発の電車に乗りたくて
 はや足で のぼる小路
 それでも
 目の端がとらえてしまう 小さきモノ達よ


 短くなったタバコの吸い殻

 路面にひろげられたまま貼りつく ....
 小さなグラスにウイスキーをなめなめ

 夜更けて
 
 行くのを知る


  そういえば私の影は何処へいったでしょう。

   「探しにでもいったのでしょう。」

  あら、何 ....
 かつて
 わたしの掌に
 高々と燃えていた火柱

 それは
 赤く 高く 太く 激しく
 掌で支え切れない程だった

   わたしの顔も 肩も 胸も
 
   焔に染まって輝 ....
 うごく小さなゴミの塊

 しゃがみ込んで足もとのキミを摘み上げる

 「モップスリッパみたいじゃないか!」
 と
 カナブンくんに挨拶する

 どこを
 どうあるいたら
 こんな ....
 にぎわう児童公園に
 一人やって来た その子
 砂場の隅っこにしゃがむと山を 
 つくりはじめる

 子連れの大人は
 見知らぬ子だから声を掛けてみるが
 自分のつくり始めた山に夢中な ....
 暗闇の中には沢山の物語がある


  パリの老いた靴作りが
  ハンチングを傾けてかぶっているのは
  むかし街の女に
  とても粋だわ と口笛を吹かれたからという話

  それでそ ....
 路の端
 行きすぎるヒトの脚許
 恐れもせず
 ヨチヨチ
 
 細い舗道で歩調ゆるめるヒトたちの視線
 浴びる君はなんとか
 横断すると
 また 喫茶店のガラス扉の前
 軒下う ....
 給料日 仕事上がりに立ち寄るATM
 その銀行の隣に花屋がある
 軒先、白い看板には飾り文字で「花音」

 店内は細長いスペースで奥行きあり
 入り口に色とりどりの花の苗が陳列していた
 ....
 変な 顔の子だった 
 くしゃみをした犬の子の様だと人が笑った

 その子が 二十歳をすぎて
 段々と美しくなって来た

 笑う時、口許に愛嬌がある
 と人が言った
 いや 目もとが ....
 
 雨あがりの夕まぐれ
 駅前通りの小路で見かけた
 たどたどしい足どりの小さな長靴

 ランドセルは背負っていないけれど
 スクールスカートを履いて
 片手に持つ二つ折りの画用紙
 ....
 いつからか

 私のまわりを古びた影が踊るようになった

 冷たい唇を
 心臓にぴったりとはりつけて
 やがて
 血汐をすいとってしまうのではないか


   だが
    ....
 その視線はどこを見るでもなく
 誰を みるでもなく
 そして何に
 留まるでもない

 体になじむポロシャツと
 洗いざらしな作業ズボン姿のおじさん

 きっとシルバー人材センターか ....
 風の中に雨がむせび

 雨の中に女がむせぶ

  長く長く
   細く細く


 胸の中に
 容赦なく風が吹きこむ度
 
 血潮のいとおしさに女はむせぶ
 
   過ぐる日 ....
 地元走るローカル線を無人駅で降り
 山裾へのぼる細い道で足を止めた
 通りすがりの一軒家

 茂る枝葉を被った鉄の門
 奥に木造の二階建て
 軒下には蜘蛛の巣が灰色の層になっている

 ....
 地元走るローカル線を
 無人駅で降り
 山裾へのぼる細い道で足を止める
 通りすがりの一軒家

 枝葉被った鉄の門
 奥には木造の二階建て
 厚地なカーテンひかれたままの窓
 
  ....
 ある人を喜ばせる役目を終えて
 そのメルヒェンを忘れ果て
 路上に居る様には見えなかった
 マスコットキャラクターの小熊

 目的のある足は目も触れず通り過ぎて行く歩道で
 しゃがみ込ん ....
 
 
 既に色褪せて重たく落ちている花片を
 踏みながら歩む林の中は
 もう黄昏ている

 椿林の木立
 わずかな隙間から
 聞こえる波濤のどよめき

 腰をおろしてみなさい
 ....
 「うまそうやなぁ!」
 いきなり頭上から降ってきた補佐の声
 昼休憩時
 開いたわたしのお弁当

 ほうれん草の胡麻和え
 切り干し大根の煮物に出し昆布の千切りまで入り
 かぼちゃの含 ....
 その日は夕方までに出張先を二箇所回る予定だった
 庁舎の駐車場を出発した公用車のバン
 
 走る 湖岸道路から
 雪化粧した比叡の山陵が見えて
 ハンドル握る主幹へ助手席の私はたずねる ....
 赤茶けた りんごの芯を

 みつめていたら

 なにもかもが


 こわれかけた 白さに

 
 その薄さよ


 わたしは

 あなたの胸を離れなければならな ....
リリー(410)
タイトル カテゴリ Point 日付
最期をむかえるならば自由詩8*23/7/15 6:36
待つ女自由詩4*23/7/13 10:05
一筋の汗[まち角17]自由詩4*23/7/13 9:51
酒房の話自由詩9*23/7/12 5:15
溺死体自由詩4*23/7/11 5:06
寝ぐら[まち角16]自由詩2*23/7/9 18:17
半月自由詩3*23/7/8 7:34
遠い夏自由詩8*23/7/7 10:54
Female spider [まち角15]自由詩3*23/7/6 9:40
三面鏡自由詩5*23/7/5 14:19
役目[まち角14]自由詩3*23/7/3 13:37
夜更け自由詩5*23/7/3 10:18
月に歩く女自由詩3*23/7/2 3:02
七月のそらに[まち角13]自由詩2*23/7/2 1:45
静かな山[まち角12]自由詩3*23/7/1 11:02
ヨル自由詩10*23/6/29 19:51
街カラス[まち角11]自由詩5*23/6/29 12:26
花とボタン自由詩12*23/6/28 7:21
ボディーメイクランジェリー自由詩4+*23/6/26 9:21
浮き草[まち角10]自由詩4*23/6/25 8:25
鎮魂歌自由詩4*23/6/24 19:23
朝のシャンソン[まち角9]自由詩9*23/6/24 13:43
風の中に自由詩7*23/6/23 9:59
引幕(「廃家」[まち角8]改訂)自由詩6*23/6/20 15:03
廃家[まち角8]自由詩4*23/6/18 13:03
メルヒェン[まち角7]自由詩4*23/6/17 12:32
南の果の岬自由詩5*23/6/17 6:53
愛妻弁当自由詩3*23/6/16 12:25
阿吽の呼吸自由詩4+*23/6/15 6:48
別離自由詩3*23/6/14 6:12

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