小指で伝う葉脈のか細さをきみは知ろうとしない。生きるうえで不要なのが繊細さなら、搭載された生き物は最初から負けているの。きみはいいな、と指で葉をなじった。神さまを信じないきみこそが、神さまに愛されてい ....
宵の切りくち、触れて、きっとベルベット。本当の黒なんてどこにもなかった。なでた場所から裂けていく夜をかがり縫う。濃紺であり、薄墨の、暗いからよく見えない、黒ではない黒色。ひと刺しごとに指先へと重くのし ....
いびつに切り貼りされた現実の、ぺらとぺらのすきまにきみはしがみついていた。きみの顔をのぞくこの瞳はさながら怪物に見えるだろうか。差し出した爪の先を巨大な肉切り包丁とたがえるだろうか。鏡なんて当てになら ....
愛してくれるひとがいるのに死にたいと口にするのはただの贅沢、贅沢なんだよってあの子が泣いていた。返事をする代わりになだらかな夜を撫でた。ビロードの手触りがわたしの心を穏やかにして、わたしの世界、きみの ....
細胞が音もなく引きちぎれて、消滅と分裂の繰り返しが体のすみずみを満たしている。一年後、五年後、十年後のあたしからオリジナルのあたしが目減りしていく。きっときみは化け物で、とうに正気を失っていた。あたし ....
惑星が足首を巡るたび、つま先に星が溜まった。指先ですくい上げるときみの瞳にひかりが集まって乱反射する、宝石のように。鋭く傷をつければもっときらめくことを知っているから、きみを大事にしていた。見つめると ....
瞬きするたびに肌を刻んで、わたしは大人になっていく。昔よりもぼやけた視界のどこかで、この街では星が見えないと舌打ちが聞こえた。ここも誰かの故郷なのだと、わたしたちは時々忘れてしまうね。この目が誰の輪郭 ....
剃刀みたいな言葉にも愛情は宿るのだと信じていた。切っ先のひかりを盲目的に見つめて、この体がふたつに切り落とされる瞬間、左右どちらの器にあたしは棲んでいたのだろう。解を得ないまま伏せるまつげのすきま、き ....
2月の心音を思い出しながら、8月の憂鬱を海に流した。夏の夜はきみの瞳の色をしていたの。拾い集めた星屑を沈めて、ひかりを宿して、わたしの再生が始まる。こうしていまさら思い出すのは線香花火のにおいや、なだ ....
ここが夢か現実かなんてきっと一生わからない。揺るがないものなんて何ひとつないんだと、停電した部屋のすみでキットカットをかじっていた。あたしただのバグで、この部屋はゴミ箱で、正常値を保つために世界から取 ....
月がどこかへいなくなった夜にきみもひっそりと消えてしまいました。行き先は火星ですか。それとも木星ですか。終バスがないからもう追いつけない。ここは当たり障りのない星です。ちょうどいい気温ではなくただぬる ....
あなたが作ってくれたオムライスは変わらずわたしの好物で、特別に優しいのは終わりが垣間見えるから。見送りに来たあなたから逃れて、揺られて、揺られて、降りて、そこはわたしの街。あなたが追いつけないわたしの ....
「世界が平和になりますように」の立て看板を次から次へとぶっ壊して破片の上でダンスダンスダンス。七夕まで踊り狂うよ。天の川の下、きれいに残った文字だけを組み合わせたらそれが世の中の真実なんです。
嫌い ....
死んだ時に見られたら恥ずかしいものってなんだろうね。なんて話題はドーナツをかじりながら流すくらいでいいでしょ。この体がそうであるように、恥も心配もあの世には持っていけないよ。わたしが思案してるのはいつ ....
形から入るタイプだから水晶玉でもそろえない限りスピリチュアルに傾倒することは一生ないと思う。それに飽きやすいから。さみしい人がハマるんだよって、ハマったこともない友達が深刻な顔で忠告してくれたけど、き ....
平和なひとにしか着られない服があるらしい。あたしも着たい。「似合わない」の散弾銃を浴びたい。身体中ぼこぼこに開いた穴から零れるのがうつくしい宝石なら生きた価値を見出せる気がしている。証明させてよ。フリ ....
真夜中のスーパーマーケット。どこにも行けないわたしを守る光の零れたシェルター。その隅で半額のお刺身を手に取る。賞味期限の近い3割引の食パン、腐りかけの安いバナナ、廃棄寸前の玉ねぎサラダ。見放されたもの ....
夏は、あついね。なつは、暑いね。なつ、は、あつい、ね。なつ、なつは、あああつ、あつい、ね。
舌が上あごにはり付いて、喉の奥が粘っこくなって、呼吸が絶える1秒前にようやく正しく伝えることができる。 ....
3年間同じ臭いを放っているだろうと思われていた汚くて臭い学校のトイレの一つが、ある日突然ジョンレノンみたいな男の人とオノヨーコみたいな女の人によって緑とオレンジに塗り替えられた。こんなボロい校舎にある ....
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