さてこれは一つの『山月記』論である。
リルケの「若き詩人への手紙」(新潮文庫)の豊かで人を救う敬虔な文章に、
ぼくはすっかり夢中になっている。
だが、それだけではまるで読書 ....
友人からのながい電話を受けていると、耳もとで言葉がばら、ばら、と雑音のように崩れていく。夜。夫は仕事のあとに飲み会があると連絡をくれた。冷めてしまったスープ、かたくなったパン。きのうやっと出してきた、 ....
あのですね「救荒食物便覧」と云う書物がありまして、恐ろしく高価だったです。
なんでそれを読まねばならなかったか。其れについて少しばかり述べましょう。
わたくしは小学校入学以前の年齢であったと記憶 ....
1)たくてんが消えた夜
「さるソハ」 (ひんほうにんの家)
老爺: このくそ母あ、汎飯に猿ソハ足す奴かあるか。
老破: くそ死屍い、人並みに枷い手から聖托言いな。
中年嫁: お示威ちゃ ....
“あなたの詩は、なんというか
詩人の書いた詩ではなくて
詩人になりたい人が書いた詩だ――。”
と、黒づくめのその人は言った。
“かたくるしい詩だね。”
とだけ愛嬌たっ ....
いつもと変らぬ朝だった。私はそのつもりでいた。
毎朝目覚まし時計が鳴る数分前に目を覚ます。その直前まではたいてい夢のなかにいる。例えば犯罪を犯して迷宮に逃げ込み、逃げ回ったあげく精根尽き果て目覚 ....
時間というものは時と時の間に存在するもので時そのものではないけれど、時という存在自体がそもそも流れる性質を持つものであるから、時を感じようとするものには時は時間として感じられる他ない。どれだけ短く時 ....
雨が降っていた。
秋晴れがさんざ続いたのをかき消すかのような、どしゃぶりだった。
わたしの住む地区には、いわゆる障がい者の人たちが通う学校が沢山ある。
聾学校・盲学校・養護学校…最近では、盲 ....
学校指定のカバンとエナメルを横に置くと、どうしてもふたり分の座席を占領してしまう。日が落ちきって、人も疎らなバスの車内がありがたい。いくら荷物が多いと言えど、ふたり分を占領することはなかなか勇気がいる ....
同じアパートに十年も暮らすと、周りの景観も少しづつ変わってくる。
月極駐車場だった所は小奇麗なワンルームマンションになり、私のアパートの隣の旧いアパートは取り壊され、モダンな一軒家になった。今も ....
先にどちらが言うともなく、晴田と奥山は学校が終わると晴田の家に行き、カバンを置いてボールを持つといつもの公園に来た。
サッカーの練習をするためだった。
晴田と奥山は小学一、 ....
木
木は黙っているから好きだ
木は歩いたり走ったりしないから好きだ
木は愛とか正義とかわめかないから好きだ
ほんとうにそうか
ほんとうにそうなのか
見る人が見たら
木は囁いて ....
蛇蝎の唄
鏡にむかって唱える
おのれ 醜(シュウ)
どろあしで ふみにじる
鏡に 流るる どろえきのしたに
ちぬらるる
おのれ 蛇蝎の族(ウカラ)
韜晦を重ね
はや と ....
これからの社会は2つの道がある。
?愛に満ちた生の社会
生きる事を大切にした社会です。少数、少量で循環した系を持ち、
分け合う心を持っています。苦しみ、努力が多く大変ですが充実感はあります。 ....
18
「彼女」は自分のことを「私」と言っている時もあった。こういった事象に整合性はないのだろうか。良く分からない。
「彼女」から私が私に戻った時は唐突で、急にはっと目が覚めるような感じであ ....
野良猫が歩いていました。
な〜んて言っても
それが本当に野良猫かどうかは
知りません、雰囲気です。
つまり、小汚い猫でした。
後ろ足を引きずっていました。
痛々しくはありましたが
怪我を ....
もし、新たなメッセージがあったら死んでもいい、と念じたとする。
すると、あった場合は嬉しいし、なかった場合は死から遠くなり嬉しい。
もし、新たなメッセージが無かったら死んでもいい、と念じたとす ....
すっかり途方に暮れてしまっていた。
もうかれこれ40分は白い空白を眺めて、おもむろに煙草を三本程吸う。
深夜三時の深海。外は秋雨の霖雨の悲につつみこまれ、鉄は錆び濡れているのかと一度、哀感するのだ ....
文学作品は完結していない。それは読者の推定によって補われることで完結する。そして、その推定に際しては読者のバックグラウンドが反映されるから、推定によって完結する作品の中には当然読者の在り方が反映され ....
冷めたコーヒーは苦い水であるからして不味いのは当たり前のことである。かといって大雨で増水したドブ川の匂いがするとなったら話は別だ。好奇心から、私は中に人差し指を沈めてぐるりとかき混ぜてみた。すると ....
ちいさながじゅまるの鉢植えを夫が買ってくれた。土曜日、駅のよこにある小さな、閉店間ぎわの花屋で。つめたくて、青い、「2」という数字がかたどられた陶器に入っている。
植物の方が、動物よりもなじ ....
西の空、山の先がわずかに明かりを残している。周囲のビルの明かりは灯されていた。西の空が青と言えなくもない色から、闇に変わる。エレベーターホールから覗く外の空はすでに夜だった。自動ドアの前まで歩く。ド ....
私はこの一年ほどtwitterで詩を書くということをやってきた。twitter詩の特徴として、(1)非同一的であること、(2)公開性があること、(3)反応がリアルタイムであること、を挙げようと思う。 ....
自由詩というジャンルは、長い間、一人称の最後の砦として機能してきたと思われる。それは、小説よりも私的で、小説ほどの鍛錬も要らず、自由に思ったことを「私」の意識の赴くままに書いていく、そういうものとし ....
卵巣が痛むのは、男と結婚したわたしへのFの復讐かもしれない。
愉快に晴れ渡った夏の午後。わたしは、シトロエンの助手席にFを座らせ、幌を全開にして高原へ向かった。風景が白いボディに写りこみ、 ....
秋の野原にたんぽぽなんぞが咲いていると
あれ、もう春だったっけ? とぎょっとします。
いや、冗談じゃなく、最近の忘れっぽさには
少し怖いものを感じていますので。
現フォに投稿させていただい ....
安物の意味合いは、もうすっかり変わってしまっている。それは必ずしも粗悪品を意味しない。いろいろ限界があるなかでも本気でいいものを作ろうとしなければ誰も振り向いてくれない。ましてやお金を払おうとなんて ....
チヂム君「あーん!ふえもん!」
方洲登呂 富衛門「どうしましたか?助けになれることを私は望んでいます」
チヂム「もうすぐ世界の終わりが来るってライアンが僕を脅かすんだ!」
富衛門「安 ....
夏よりも冬のほうが好き。冬が終わるときはなんとなくさびしい気持ちになるけれど、夏が終わるときにはいつも少しうきうきしてしまう。
ただ好きというのと得意というのはやっぱり少しちがっていて、色々なも ....
私が文章を書くようになったきっかけは、夢を描写することであった。
人は、一日に八時間眠るとして、人生の三分の一を眠って過ごすわけだが、その眠っている間、大抵は夢を見る。私の場合、
「ああ、面白 ....
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