「その海から」(41〜50)/たもつ
 
41

市民会館の大ホールを
ゼリーは満たしていた
屋外では雨が
土埃の匂いを立てている
観客の思い浮かべる風景は
みな違っていたが
必ずそれはいつか
海へとつながっていた



42

遠い親戚の
燃えるような匂いがしている

あなたの折る鶴の顔は
みな優しい

原野に置かれた輪転機は
誰にも迷惑をかけなくなった



43

ひたすらコーヒープリンを
食べ続けた夏があった
風は脈拍や鼓動の近くを吹き
僕はその夏
届出する書類もなく
自分の名前を書くことはなかった
ただ薄い皮膚が破れないように
気をつけていた



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