掌編小説『しゃしんの女』 〜中〜/朝原 凪人
ヶ月だったのか、もしかしたら全ては一夜の出来事だったのかもしれません。ですが、カラダに残る快感だけは憶えています。アレを――もうアレと言うのも、回りくどいですね。心を失くした者同士が、お互いのカラダを貪るのです。昆虫よりも本能的に。動物よりも攻撃的に。思い出しただけでもカラダが震えますわ。あくまで震えるのはカラダだけですけれどね。だって心は」
私は二本目の煙草を吸い終えようとしていた。取材用のメモ帳は白紙のままだった。どうしてだか、何も書く気になれない。その必要性を感じないというべきか。私は今女から聴いているこの話を忘れることはないだろうと、無意識のところで意識していた。確信していた。
三本目に火を点ける。
「ある夜のベッドのなかであの人は私に尋ねました。先ほどアナタが訊ねたように。『君はどうして心を捨てたんだい?』と。わたくしは答えましたわ。やはり貴方に対して答えたように。疲れたからだ。と。そして、生きるためには必要ないものだから。とも。今度はわたくしが尋ねる番でした。貴方はどうして捨てたのですか?」
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