武士のきもち/佐野権太
 
帰宅ラッシュだった
階段で圧力に耐えかね
ひょろ長い女の背を
あわあわと胸で押してしまった

(押すなよおっさん!

おっさんではない
武士である



法度(はっと)に触れるので
刀は持ち合わせておらぬが
世が世なら
斬り捨てられておるぞ、
おぬし

カツカツと歩く背中
ブロック塀に泥団子を投げつける
きもち
指先は反らせて、回転をつける
きもち
くだけた残骸を
こんもり残して
どこまでも突き抜けていく
当たった場所のすべてが的だ
(BINGO!



停車場は日暮れていた
おれんじ色の猫が一匹
首をまわして
後肢を丁寧に舐め
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