創書日和「縁」/虹村 凌
 
背中を向けて寝転ぶ姿をしばらくの間眺めて
静かな寝息が聞こえた頃にそっと布団を抜け出す
しっかりした鼻緒の下駄をひっかけて
ヴェランダで煙草に火をつけると
よく知らない街の風が煙を遠くまでさらっていった

ポケットの中の鍵を探り当てる
飾りも何も無い質素なキーホルダーを
煙の輪に通して遊ぼうとしたけど
何度やっても輪が作れないので諦めた

地上を走る霊柩車を見て反射的に親指を隠す
あんたに教わった事
もう夜中に爪を切る事も無くなって久しい
黒猫も烏もすっかり嫌いになっちゃった

もう まっぴら

わざわざ切れ味の悪い包丁を買って
それで作った見た目の悪い料理を
心から「おいしいよ」と言う口から
今は

机の上には777円と印刷されたレシートと
223円分の小銭が散らばってる
そこから一円だけつまんで
代わりにそっと鍵を置く

もう まっぴら

朝陽が上る前に
この部屋を出なきゃ
もう朝の私を愛でる事も無いでしょう
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