創書日和「指」 『いつまでも、鰐』 /士狼(銀)
 
とん、と
遠くの方で落下音
君は絵本を閉じてゆっくりと立ち
音を探して軽く首を傾げる
小指を栞代わりにする癖は治らないらしい

音の正体を知っているけれど
教えてはあげない
あのお喋りな雀たちは
君を外に連れ出してしまうから


君は再び至極ゆっくりと座り込む
まるで天秤が傾くのを怖がるかのように

横たわるこの首と
君の左手首にはお揃いの空がいる
名前は記号にすぎないけれど
君の名前は特別に
希望のようにしっかりと刻まれる
この、止まりかけた心臓に


あ、と零れ落ちた溜息のような声さえも
壊れたこの耳は
それだけを求めて一生懸命になって拾う

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