異形の詩歴書 〜12歳/佐々宝砂
 
をやめるのは無理だった。私は小学生のうちに稲垣足穂を読んだし、馬琴も西鶴も読んだ。宮澤賢治も柳田国男もおなじころ読んだ。足穂の『一千一秒物語』と賢治の『銀河鉄道の夜』と柳田の『遠野物語』が大好きで、私はそれらを繰り返し繰り返し読んだ。

 けれど当時の私が何よりも好きだったのは、アストリッド・リンドグレーンというスウェーデンの作家が書いた児童文学である。私は、アメリカに憧れを抱くまえに、スウェーデンという国に憧れをおぼえた。北国の厳しい気候と、野営の焚き火と、「あってはならない戦い」と革命と竜と蛇と妖精とみずみずしい春と……そして「どこにもない国」。11歳にして人生に絶望してしまった人間が、
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