架空の春/塔野夏子
君の既視感を舞っているのは
紙製の蝶だよ
いちめんのなのはな と君は呟くけれど
此処はうち棄てられて久しい館の中庭
君が坐っているのは朽ちかけたベンチだよ
とうの昔に涸れた噴水の傍の
と 僕には思えるのだけれど
僕の見ている君はもはやただの既視感かもしれず
君の居る場所はいつのまにか
僕から遠くへだたっている
と いつだったか気づいたそんな気もする
君は紙製の蝶を追って
いちめんのなのはなのなかに消えてしまった
のかもしれないそんな気もする
此処はたぶん
うち棄てられて久しい館の中庭に
まちがいないと思うけれど
たぶん今は春でないはずで
ありもしない噴水のしぶきに
虹が見えるような気がするとしたら
それは此処にはもう居ないかもしれない
君のせいなんだろう たぶん
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