近代詩再読 立原道造/岡部淳太郎
 
さやいてゐる。さうして僕は、心に感じてゐることを僕の言葉で言ひあらはさうとはもう思はない。何のために、ものを言ひ、なぜ訊くのだらう。あんなことを一しやう懸命に考へることが、どこにあるのだらう。Tよ、かうしてゐるのはいい気持。はかり知れない程、高い空。僕はこんなにも小さい、さうしてこんなにも大きい。

(「夏の旅 ? 憩ひ――I・Tへの私信」)

 見ての通り、散文詩形式で書かれている。全7章のうち、ちょうど真中に置かれたこの章だけが散文詩なのだが、これは絶唱といってもいいような気がする。これは若い詩人の夢から現実への目醒めの瞬間なのだろう。「夢よりも美しいものは世
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