近代詩再読 立原道造/岡部淳太郎
 
舎歌」)についてうたったりする。そして、「? 憩ひ――I・Tへの私信」で、ひとつの高みに達する。それは詩の中で描かれた旅の高みであると同時に、この詩そのものの高みでもある。


 昔むかし僕が夢を美しいと信じた頃、夢よりも美しいものは世になかつた。しかし夢よりも美しいものが今日僕をとりかこんでいるといつたなら、それはどんなにしあはせだらうか。信濃高原は澄んだ大気のなかにそばが花咲き、をすすきの穂がなびき、遠い山肌の皺が算へられ、そのうへ青い青い空には、信じられないやうな白い美しい雲のたたずまひがある。わづかな風のひびきに耳をすましても、それがこの世の正しい言葉をささや
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