夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎
 
ばならない
そんなことも ある
だが

夜、
その「 、」のあとが恐いのだ
そのあとに何が待っているのか 何が
君のために身がまえているのか
ああ
せめて眠ることが出来たら
それは人類の共通の願い
だった
それこそがこの闇から逃げ出す最上の方法
だった

いまや
街は灯り
人類の共通の記憶は
危うく消し去られそうになって
宙に浮いている
だが時には
あれは猫か
あれは犬か
それとも何か別の
などと思うことも
ないわけではない だろう

夜、

その「 、」のあとを思い描いて
今夜も誰かがふるえている
私は
恐怖の中でさえ
頑なな

[次のページ]
   グループ"夜、幽霊がすべっていった……"
   Point(9)