夜の騎士/岡部淳太郎
 
夜は暗い
夜は寒い
いまこの荒野を
この時間にしか在ることが出来ない騎士が
ひとりゆく
彼は自らの馬を失くした
それは五百年前のこと
彼は自らの体を失くした
それは五百年前のこと
いま彼はひとり
錆びた剣を杖にして
夜を歩く

都市の中で人々の日々は
現在のように
過去のように
ただ過ぎてゆき
けして未来が訪れることはなく
空気中に蔓延する生活の箴言
だらだらと繰り返される
またもうひとつの今日
そして騎士はひとり
荒野にいて
人々の住む都市を目指す
だが都市では
騎士の存在は忘却されていた

人々はみな同じ速度で滅びつつあった
だがこの影の
[次のページ]
   グループ"夜、幽霊がすべっていった……"
   Point(5)