水の中の目醒め/岡部淳太郎
それは野望
月は満ち
潮は満ち
海の底で地はゆらぎ
そしてゆらぎ
またもゆらぎ
その騒乱は海のおもてで大いなる波を生み
海の底で彼を
長い眠りから 目醒めさせつつあった
そして目醒め
本当の目醒め
彼は水の底で 海の底で
かつて人に恐れられたその巨大な身体を
伸びあがらせ
そして縮ませ
同時に彼のうちに甦る思い 狂暴な思い
それは数万年の昔
彼は数多の人の恐怖と策略によって捕えられ
水の底に 海の底に 幽閉させられた
そして目醒め
彼は目醒め
積年の怒りに牙をむいて
水のおもてを目指して泳ぎ
船は恐れ かすかにゆらぎ
船は失禁し
船は泡を吹き
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