猫たちの肖像画/まどろむ海月
 
疑わしいもので、実は彼には猫の絵しか描けなかったのです。人
が良く気弱な彼に同情して、たまに絵の注文をしてくれるお客がいて
も、花の絵を描けという注文に対しても、彼はやはり猫の絵しか描く
ことができないのでした。彼にとってその猫こそ「花」でした。しか
しお客にとってそれはもちろん「猫の絵」でしかありませんでした。
美しい山を描けという注文もありました。彼はまた一生懸命猫の絵を
描きました。彼にとってその猫こそ「美しい山」でした。ところがそ
のお客にとってもそれはやはり「猫の絵」でしかありません。こうし
て青年は親の遺してくれたわずかな財産を食いつぶすばかりで、乞食
のよう
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