猫たちの肖像画/まどろむ海月
 
激しくいだき合いながら、一匹の猫
より孤独を感じていました。王女は夫の姿が見えないあいだ、猫を膝
の上に抱きながら「愛って何かしら。」とつぶやいてはため息をつき
ました。王子は妻の姿が見えないあいだ、猫を膝の上に抱き「幸福っ
てなんだろう。」とつぶやいてはため息をつきました。

 深い霧がたちこめたある朝、王子と王女は庭で軽い食事をとってお
りました。王子が突然、音をたててナイフとフォークを皿の上に落し
ました。彼は、自分たちこそ世界で一番みじめで不幸な存在ではない
かという、それまでの人生のすべてを根底から覆すような一瞬の激し
い心の痛みに貫かれ、小さな叫びを
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