街の物語/アンテ
 
指で開けようとして
勢い余って家ごと潰してしまった
たった一つの居場所を失って
行き場のない怒りを持てあましていると
近所の人たちが出てきて
彼女を指さして口々になにかを叫んだ
ますます腹が立って
辺りかまわず踏みつぶして歩きながら
あれこれ考えてみたが
街全体が小さくなる理由など思いつかなかった
気がつくと彼女は街の中心にいて
巨大なビルの前で立ち止まった
それはひときわ突出して高く
陸の彼方まで見渡せると評判だったが
今や彼女の胸の高さしかなかった
潰してしまうのはさすがに思いとどまって
ビル全体を観察するうち
一番高いところに
ちょうど鍵穴くらいの穴がある
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