偏食/落合朱美
方がないので私は
イイヒト になりすまし
秘密を集めることにした
イイヒト の私には
毎日たくさんの人が
秘密を打ち明けて来る
夜になると私は獏と向き合って
集めてきた秘密をぶちまける
獏はどうやらいけない恋の秘密が
とくに大好物みたいで
眼をまんまるにみひらいて
嬉しそうに食べる食べる
獏に食べさせたあとは
私の心には秘密のカケラも残らないから
私は イイヒト であることに加えて
クチノカタイヒト でもあるので
ますますみんなは秘密を打ち明けて来る
だから私の社会生活は円満で
獏もいつも満ち足りているので
家庭生活も円満で
このところ申し分のない私なのだけど
それにしても
三十もとうに過ぎた独身女が
ワンルームマンションの片隅で
獏に秘密をあたえてる
これこそがとっておきの秘密じゃないかしら
と思うのだけど
獏はぜったいにその秘密だけは
食べようとしなくて
私もこれだけはぜったいに
獏にはあげない
前 グループ"偏食"
編 削 Point(21)