午 睡/塔野夏子
あたりじゅうすべてが蜃気楼と化してしまいそうな
夏の午後
裾の長い木綿の部屋着に包まれ
籐の長椅子で微睡む一個の
流線型の生命体
窓からのゆるい風が
肌にときおり触れて過ぎる
ほの甘くあかるい昏さに流動する心は
かの人の 青い感触をもつ
言葉や眼差し 頑なさを
なぜあれほど愛しくおもったのか とは
すでに思いめぐらしてはおらず
ただ横たわる身体の何処かから
おそらくは やわらかく上下する胸の辺りから
白い道がリボンのように何処までものびてゆき
その道の途中で白い日傘がひとつひらき
その道の遠くで夕立が降りはじめるのを
果敢(はか)なく 気配しているのだ
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