夏と私/塔野夏子
 
夏が来る
とりどりの宝石が波うつような
きらめきとあざやかさを纏って夏が来る

いつもはただのフェイクとしか思えない
この生命にもすべての感情にも
夏だけは流し込んでくれる――本当だと思える何かを

だから
夏のさしのべる手をとって
そしてそれを離さずに往く

  (夏とは懐かしさと憧れとの
   一瞬一瞬の鋭い交錯で
   本当の意味での現在など
   存在しないと知ってはいても)

今年はどんな絵巻をくりひろげてくれるだろう
夏が来る
とりどりの宝石がひるがえるような
きらめきとあざやかさを放って夏が来る

この生命にもすべての感情にも
夏だけは注ぎ込んでくれる――愛しさとも云うべき何かを
だから
夏のさしのべる手をとって

そしてそれを離さずに往く
尽きるまで
何処までも



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